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現実はいつも対話から生まれる(ケネス・J・ガーゲン、メアリー・ガーゲン)[連載:プロジェクトを両利きでマネジメントしていくための1冊]

この記事は、「両利きのプロジェクトマネジメント ――結果を出しながらメンバーが主体性を取り戻す技術」(2025年6月16日発売)に関係が深い書籍を紹介する連載記事です。
現代のプロジェクトに必要なのは、タスク管理やスケジュール管理だけでなく、チームで物事を進めていくための技術であり、そのためには、これまでプロジェクトマネジメントの中であまり目が向けられてこなかった各種の知見にも目を向ける必要があります。
この連載では、プロジェクトマネジメントの理解を深め、みなさんがプロジェクトをマネジメントしやすくなる書籍を紹介していきます。

この記事で扱うテーマは「社会構成主義」です。

社会構成主義は、私たちが「当たり前」や「常識」だと思っていることは、実は絶対的な真実ではなく、社会にいる人々との対話などを通じて作られたものだ、とする考え方です。例えば「男らしさ」「女らしさ」といった概念も時代や文化によって変わりますが、現実は社会的に作られていく、と捉える立場のことです。この記事で紹介する書籍のタイトル『現実はいつも対話から生まれる』は、そのようなことを意味しています。

この記事では、社会構成主義の概念をご紹介しながら、それがプロジェクトマネジメントにおいてどのような意味を持つのかということをお伝えしていきたいと思います。



社会構成主義とは

『現実はいつも対話から生まれる』の著者ガーゲンは、社会構成主義をこのように表現しています。

私たちが「現実だ」と思っていることはすべて「社会的に構成されたもの」です。もっとドラマチックに表現するとしたら、そこにいる人たちが、「そうだ」と「合意」して初めて、それは「リアルになる」のです。

出典:『現実はいつも対話から生まれる』(ケネス・J・ガーゲン、メアリー・ガーゲン、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2018年、20ページ)

お互いにコミュニケーションを取るたびに、私たちは、この生きている世界を構成していると言えるかもしれません。

出典:同書、20ページ

例えば、虹の色。日本では「7色」が常識ですが、国によっては6色や5色と見なされます。これは、虹が客観的に何色と決まっているわけではなく、文化的な合意や対話を通して「7色」という私たちの現実が作られた一例です。物事の意味や私たちの現実は、みんなで話し、行動するプロセスを通じて「共に創り出されている」のです。

社会構成主義とはどのような概念なのか。
以上のような観点も含めて、社会構成主義の考え方の特徴を見ていきましょう。

1. 【関係】われわれは関係する、ゆえにわれあり

私たちは普段、「自分は一人で考えて、一人で行動する独立した存在だ」と考えがちです。しかし、ガーゲンはそうは考えません。私たちの「自分らしさ」や「現実」は、人とのつながりや会話の中から生まれてくると考えます。
「われ思う、ゆえにわれあり」というデカルトの有名な言葉がありますが、ガーゲンは社会構成主義の考え方を「われわれは関係する、ゆえにわれあり」と表現します。孤立した個人から関係性へ焦点をあてるのが社会構成主義の考え方の中心にあります。

2. 【対話】いつまでも開かれた対話

先ほどご紹介したように、社会構成主義は、私たちが「これが現実だ」「これは正しい知識だ」と思っていることは、実はあらかじめ決まっているものではない、と考えます。それは、私たちが言葉を交わし、対話する中で、みんなで「そうだね」と合意したり、共通の理解を作り上げていくことで初めて「現実」として現れてくるのです。 そのため、社会構成主義は「いつまでも開かれたままの対話」を重視します。

唯一無二の真実を探し求める人は、世界をたった1つの固定された言葉へと単純化しようとします。唯一無二の真実を宣言するということは、言葉を「急速冷凍」して、その結果、新しい意味が現れる可能性を狭めてしまうということです。
一方、構成主義者が支持するのは、「常にいつまでも開かれたままの対話」です。そこには常に、もう1つの声、もう1つのビジョン、もう1つの構想や修正案という余地があって、「関係」にはさらなる広がりがあります。

出典:同書、49ページ

社会構成主義は、「ただ1つの真実が存在する」とは考えないため、逆に「絶対的な間違い」も存在しません。仮に批判があるとしても、それはネガティブな意味ではなく、むしろ、新たな理解や新しいものを生み出すための「対話」と「コラボレーション」のきっかけにすぎないと捉えます(p170)。

すぐにこうだと決めつけることなく、決断を保留する態度。
そして、よりよいものを探し続ける態度。

社会構成主義は、そのような「いつまでも開かれた対話」を重視するものです。

3. 【リーダーシップ】個人のリーダーシップから関係性のリーダーシップへ

社会構成主義は、私たちが持っているリーダーシップ観についても、固定的なもの・個人的なものとせずに、開かれたもの・関係的なものとして捉え直します。
部下に強制力を行使するようなリーダーシップではなく、関係性の中で共に意味を創造していくようなもの(リレーショナル・リーダーシップ、関係性のリーダーシップ)としてリーダーシップを捉えます。

リレーショナル・リーダーシップが生まれるのは、対話に参加する人たちがリーダーシップの役割と行動を自分たちの間で創造するときです。(略)リーダーシップとは「リーダーの所有物ではなく、そのコミュニティの1つの側面」として理解されるもの。
ーーー
リーダーシップに関係性の視点を持ち込むことで、革命的な結果がもたらされます。例を挙げると、リーダーをひたむきで明確なビジョンを持った人物とみなすのをやめた途端に、メンバーがリーダーの役割を引き受けるようになります。

出典:同書、102ページ

みなさんも、プロジェクトや学生時代の活動・部活などを通じて、このようなリーダーシップを経験されたことがあるのではないでしょうか。

たとえば、誰か1人だけがリーダーシップを発揮して、その他の人はリーダーの指示に従うだけの活動ではなく、特定のTheリーダーという存在はいないけれど、みんながリーダーシップを発揮しているような状況。
逆に、「あなたがリーダーなんだから、あなたが意思決定して、適切に指示を出してください」というように、特定の人にリーダーシップを追わせて、結果的に、誰も主体性やリーダーシップを発揮しないような状況。

みなさんそれぞれ思い出すシーンがあるのではないかと思います。

リーダーという役割も、対話も、会話も、他の誰かがいて成り立っているものです。
私たちは、あらためてそのことを考える必要があるのではないかと思います。



『両利きのプロジェクトマネジメント』における社会構成主義

以上、社会構成主義とはどのようなものか?ということの概略を見てきましたが、ここからは、『両利きのプロジェクトマネジメント』でお伝えしていることを参照しながら、プロジェクトマネジメントにおける社会構成主義の意味を見ていきたいと思います。
『両利きのプロジェクトマネジメント』は社会構成主義的なプロジェクトマネジメント論とも言ってもよいくらい、先ほど言及したような特徴を組み込んだプロジェクトマネジメントの方法論になっています。

対話を通じて現実を捉える=定例会議を重視

『両利きのプロジェクトマネジメント』では、私たちがプロジェクトの状況を捉えようとするとき、特定の1人だけの目ではプロジェクトを正しく捉えることはできないと考えています。 先ほどご紹介した虹のように、同じものを見ても、その捉え方は人や環境によって異なります。私たちは、同じものを見ているようで、実は同じものを見ているわけではないのです。

そのため、対話を通じて現実を捉えていく必要があり、『両利きのプロジェクトマネジメント』で「定例会議」を重要視しているのもそのためです。 定例会議といっても、決まり切った議題を予定調和的に行う定例会議ではありません。現実を正しく捉え、そこから意味を見出していくための対話的な定例会議です。

会議とは、単に意思決定・合意を目指すだけのものではなく、「自分たちが直面しているものに新たに意味を付与する」もの

出典:『両利きのプロジェクトマネジメント』(米山知宏、翔泳社、2025年、144ページ)

このあたりについては、『両利きのプロジェクトマネジメント』の第2章(前提とする世界観)や第7章(定例会議)で述べていますので、ぜひお読みください。

リーダーシップをシェアする

2点目は、プロジェクトにおける「リーダーシップ」の捉え方です。

先ほど、リーダーシップは関係性の中から生まれるという「リレーショナル・リーダーシップ」を紹介しましたが、この考え方は『両利きのプロジェクトマネジメント』においても非常に重要な価値観になっています。

リーダーシップは、個人個人の中から生まれてくるものではなく、他者との関係性の中から生まれてくるもの。
ーーー
リーダーシップを発揮できるかどうかは、個人のスキルや業務の難易度だけでなく、プロジェクトメンバーや上司などとの関係性次第。

出典:『両利きのプロジェクトマネジメント』(米山知宏、翔泳社、2025年、49ページ)

「リーダーシップを個人のリーダーシップではなく関係性のリーダーシップとして捉え直すことで、メンバーは主体性を取り戻し、プロジェクトはもっと創造性を発揮できるのではないか?」というのが、『両利きのプロジェクトマネジメント』に通底している問題意識です。

  • リーダーシップを特定の人の所有物としてみなすことをやめたらどうなるだろうか?
  • プロジェクトを率いていくという仕事(リーダーシップ、マネジメント)をメンバー間で分かち合ったとしたらどうなるだろうか?

もし、このような問いを持ちながら目の前のプロジェクトに向き合ってみたならば、プロジェクトに関わるみなさんが持っていたものが、より発揮されていくでしょう。



自分自身の世界の見方に自覚的になること

以上、『現実はいつも対話から生まれる』をご紹介しながら、プロジェクトマネジメントにおける社会構成主義の意味について簡単に触れてきました。

私たちは、「社会とはこういうものだ」「リーダーシップとはこういうものだ」「プロジェクトとはこう進めるべきものだ」と暗黙的な考え・価値観を様々に持ってしまっています。そのような暗黙的な価値観を持つことは、他者と物事を進めていくうえで効率的な部分もありますが、一方で、自らの思考や行動を縛ってしまっているところもあります。

たまには、自分自身が世界をどのように見ているか、どのように捉えているかという価値観にも目を向けて、凝り固まってしまっている自分自身の頭・心をほぐしていきましょう。5分でもその時間を持つことができたならば、プロジェクトにも人生にも向き合っていきやすくなるのではないかと思います。

最後に、ガーゲンの言葉を1つ紹介したいと思います。

私たち著者も、この本を書きながら読者のみなさんと共に意味を創造しようとしているのです。
重要な問いは、「私たちの言葉が真実か否か?」ではありません。重要なのは、「そのような理解の仕方に加わることによって、私たちの人生に何が起こるのか?」という問いです。

出典:『現実はいつも対話から生まれる』(ケネス・J・ガーゲン、メアリー・ガーゲン、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2018年、45ページ)

拙著『両利きのプロジェクトマネジメント』も同様です。
米山が書いている方法論が正しいかどうかではなく、「両利き」で書いている世界観や考え方もあるとしたら、みなさんの仕事や人生に何が起こるのか?ぜひそのような問いを持ちながら、『両利きのプロジェクトマネジメント』も読んでいただければと思います。



『両利きのプロジェクトマネジメント』は2025年6月16日発売!!!



執筆者 米山知宏(よねやま・ともひろ)Facebook / Twitter
株式会社コパイロツト Project Enablement事業責任者 / 新潟県村上市役所CIO補佐官。 東京工業大学大学院社会工学専攻修了後、株式会社三菱総合研究所、新潟県新発田市役所を経て現職。 民間企業や自治体におけるデジタル・トランスフォーメーションや組織変革を支援しながら、プロジェクトを推進する方法論を探究している。 探求成果は株式会社コパイロツトのブログSpeakerDeckで公開している。

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