現代のプロジェクトに必要なのは、タスク管理やスケジュール管理だけでなく、チームで物事を進めていくための技術であり、そのためには、これまでプロジェクトマネジメントの中であまり目が向けられてこなかった各種の知見にも目を向ける必要があります。
この連載では、プロジェクトマネジメントの理解を深め、みなさんがプロジェクトをマネジメントしやすくなる書籍を紹介していきます。
この記事で扱うテーマは「ふりかえり」です。
多様な関係者とともに新たな価値を生み出そうとする現代のプロジェクトにおいてふりかえりは極めて重要です。ふりかえりについては『両利きのプロジェクトマネジメント』でも言及していますが、プロジェクトを両利きで進めていくためには不可欠の要素です。ふりかえりをしなければ、思考が偏ってしまったり、見るべき時間軸がイマココだけになってしまうのです。
みなさんは「ふりかえり」にどのような印象を持っているでしょうか。
中には、ふりかえりが大好きで、プロジェクトでもいつもやっているし、個人でも日記を書いて毎日ふりかえりをしているという方もいらっしゃるかもしれませんが、多くの人は「ふりかえりは実施した方が良いとは思うけど、時間もないし、積極的にやりたいものではない」と感じているのではないかと思います。
大切なはずなのに大切にされていない。ふりかえりは、そんな可哀想な存在といえるかもしれませんが、そんなふりかえりに私たちはどう向き合って、どんなふりかえりを実施したらよいか。
本記事では、『アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック 始め方・ふりかえりの型・手法・マインドセット』(森一樹)を紹介しながら、プロジェクトにおけるふりかえりの意味を考えていきたいと思います。
- 『アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック』の概要
- 『両利きのプロジェクトマネジメント』におけるふりかえり
- ふりかえりは極めて創造的な行為
- 『両利きのプロジェクトマネジメント』は2025年6月16日発売!!!
『アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック』の概要
『アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック』は、「基礎編」「実践編」「手法編」「TIPS編」の4部で構成されていて、ふりかえりとは何なのかという考え方を理解するところから、具体的にどういうことを実施すればいいのかという実践まで、とてもわかりやすく説明してくれている1冊です。
そのため、ふりかえりに対して苦手意識を持たれている方も取り組みやすくなるのではないかと思います。また、単なる方法論の紹介ではなく、実際に、仲間とどうふりかえりをやっていくとよいか、組織の中にふりかえりを広めていくためにどうすればよいかという実践的なアプローチについても記載されているため、ふりかえりを広めていきたいと考えている方にも役立つ内容になっています。
以下に、私のおすすめポイントを何点かご紹介したいと思います。
これらは、プロジェクトマネジメントにも役立つ重要なポイントです。
ふりかえり≠反省会
1点目は、ふりかえりは反省会ではないということです。
著者の森さんはふりかえりを以下のように定義されています。
出典:『アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック 始め方・ふりかえりの型・手法・マインドセット』(森 一樹、翔泳社、2021年、Kindle版における位置No. 206)
ふりかえりとは反省会ではなく、チームがより良いやり方を見つけたり、チームの行動を改善していくためのものといえます。
実は、この点は、拙著『両利きのプロジェクトマネジメント』でも言及している点で、ふりかえりを「学習のためのふりかえり」と「改善のためのふりかえり」と位置づけており(『両利きのプロジェクトマネジメント』第9章)、プロジェクトマネジメントにおけるふりかえりでも重要な観点だと考えています。
もしみなさんがふりかえりを「反省会」として捉えていたならば、まずその捉え方を変えて、「改善」、さらには「学び」や「より良いやり方を見つけるためのもの」として捉えていただけるとよいでしょう。やりたくないもの、上司から言われたらしょうがなくやるものであったふりかえりが、魅力的な存在になっていくでしょう。
立ち止まることの大切さ
『アジャイルなチームをつくる』で書かれているポイントの2点目は、「立ち止まる」ことです。
森さんは、ふりかえりの1段階目は「立ち止まる」ことだとして、立ち止まることがチームの変化のきっかけになると指摘します。
これは、当たり前のことだと思われるかもしれませんが、非常に重要な点です。人間は誰しも、日々忙しく仕事をする中では、自分のことや自分たちのチームのことを客観的に見る余裕はありません。仮に問題を感じていたり、困りごとがあったとしても、そのことをメンバーに伝えることなく、自分自身だけで対処してしまうことは非常によくあるケースです。
しかし、それでは、チームがずっと苦労し続けることになります。あなたが困っているということは、他のメンバーも同様の困りごとを抱えている可能性が高いからです。
ですから、まず立ち止まってみる、ということがプロジェクトを継続的に進めていくためには大事になります。『両利きのプロジェクトマネジメント』の言葉を使えば、<直線的なモード>でとにかく進めようとするだけでなく、<曲線的なモード>で立ち止まったり、脇道に逸れる時間も、中長期的には不可欠なのです。
ふりかえりのマインドセット
ポイントの3点目は、ふりかえりを実施する際のマインドセット(心構え)です。
森さんは、チームでふりかえりをするうえで大切にするべき6つのマインドセットとして以下を提示します。
- 受容する:あるがままをチームで受け止める
- 多角的に捉える:ある事象を1つの視点から見るのではなく、立場も変えながら、様々な側面を見る
- 学びを祝う:学びを祝う考え方をもって、成功や失敗をチームの学びにしていく
- 小さな一歩を踏み出す:いきなりすべての問題を解決することはできないので、一歩ずつ変化する
- 実験する:成功するか失敗するかわからないが、何かの変化を起こすためにチャレンジする
- 高速にフィードバックを得る:アクションから得られた結果に対して、可能な限り早く、チーム内や他者からアドバイスや意見をもらう
それぞれの詳細は、『アジャイルなチームをつくる』の第2部(実践編)のChapter06(ふりかえりのマインドセット)をぜひご覧いただければと思いますが、これら6つの観点は、ふりかえりを設計したり実施したりする際に、とても大切な観点だと思います。みなさんのプロジェクトでふりかえりを実施する際には、これらのマインドセットもメンバーと共有しながら、ふりかえりを実施してみてください。
『両利きのプロジェクトマネジメント』におけるふりかえり
ここまで、『アジャイルなチームをつくる』からふりかえりのポイントを見てきましたが、ここからは、『両利きのプロジェクトマネジメント』で記載しているふりかえりの考え方について簡単に述べておきたいと思います。
『両利きのプロジェクトマネジメント』では、ふりかえりを「具体と抽象を行き来しながら、過去・現在の経験から学び、その学びを未来につなげていくための行為」と捉えています(下図参照)。
出典:『両利きのプロジェクトマネジメント』(米山知宏、翔泳社、2025年、228ページ)
つまり、
- 過去のことだけを考えるのではなく、未来のことも考える
- 問題点を抽象的に考えるだけでなく、具体的な事実もとらえる
という行き来が重要だと考えています。
この考え方は、どのようなふりかえり方法を用いるときでも有効です。たとえば、KPT(ケーピーティ/ケプト。下図)を用いるときでも、タイムラインふりかえりを用いるときでも、この4象限を意識して「実施するふりかえりにおいて重視すべき観点・問いは何か」ということを考えていただければ、ふりかえりの質が高まるでしょう。
実際下図のKPTのイメージでは、「活動の思い出し」が一番最初のプロセスにありますが、このアプローチにはとても共感します。KPTのふりかえりでは、「Keep」「Problem」「Try」だけを記載するスタイルが多いのですが、活動や事実を確認しないままに記載されるKeepやProblemはどうしても表面的なものになりがちなのです。
出典:『アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック 始め方・ふりかえりの型・手法・マインドセット』(森 一樹、翔泳社、2021年、Kindle版における位置No. 2439)
『両利きのプロジェクトマネジメント』では、具体的なふりかえり手法として「タイムラインふりかえり」をおすすめしていますが(下図参照)、このフレームも先ほどの4象限を意識したものとなっています。先ほどのKPTのイメージと見比べていただくと、とても似ていることに気づいていただけるかと思います。ぜひ、みなさんのプロジェクトにあう形でカスタマイズしながら、使ってみてください。
出典:『両利きのプロジェクトマネジメント』(米山知宏、翔泳社、2025年、225ページ)
ふりかえりは極めて創造的な行為
以上、『アジャイルなチームをつくる』をご紹介しながら、『両利きのプロジェクトマネジメント』におけるふりかえりについて簡単にお話してきました。
詳細についてはそれぞれの書籍をご覧いただければと思いますが、あらためてお伝えしておきたいのは、森さんも指摘されているように、ふりかえりを「チーム全員で立ち止まり、チームがより良いやり方を見つけるために話し合いをして、チームの行動を少しずつ変えていく活動」として捉えていただきたいということです。
ふりかえりは、「過去に目を向けて終わるもの」でも「現在をなんとかやり過ごすためのもの」でもない、チームや私たちの未来に繋がっていく、極めて創造的な行為です。
ぜひ、みなさんのプロジェクトの未来、みなさん自身の未来のために、週に5分でもふりかえりの時間を取ってみてください。
また、ふりかえりについては、以下の記事でも書いていますので、ぜひお読みください。
『両利きのプロジェクトマネジメント』は2025年6月16日発売!!!
株式会社コパイロツト Project Enablement事業責任者 / 新潟県村上市役所CIO補佐官。 東京工業大学大学院社会工学専攻修了後、株式会社三菱総合研究所、新潟県新発田市役所を経て現職。 民間企業や自治体におけるデジタル・トランスフォーメーションや組織変革を支援しながら、プロジェクトを推進する方法論を探究している。 探求成果は株式会社コパイロツトのブログやSpeakerDeckで公開している。