
2026年5月、プロジェクトリーダーが推進における悩みや課題を共有する「プロジェクトリーダーコミュニティ」の第13回交流会が開催されました。コパイロツトでは現在、クローズドでプロジェクトリーダーのコミュニティを作り、交流会を開催しています。そこで、参加者の方々から実際のプロジェクトにおける課題や悩みを共有いただき、情報交換やディスカッションを行っています。
「メンバーに自律的に動いてほしい」、プロジェクトリーダーなら、誰もが抱く願いです。
一方で、「メンバーが自律的に動いているようにみえて各自がバラバラに動いており、チームとしてのまとまりや方向性が定まらない」という悩みもまた存在します。
自律的に動いてほしいがまとまりも欲しい。この一見矛盾する2つの願いを、どう両立させるのか。
第13回を迎えたプロジェクトリーダー交流会では、異なる業界のプロジェクトリーダーに参加していただき、「分化」と「統合」という組織論のテーマを皮切りに、「チームメンバーが自律的に動く」と「チームをまとめる」という命題を軸に、多岐にわたる議論が展開されました。
- 「分化」と「統合」のジレンマ
- 実態を把握することと整理すること
- 「燃える前の栗」を拾い、事実を突き合わせる
- プロジェクトに必要なのは綿密な計画か、ワクワクするビジョンか
- 異なる「環世界」を繋ぐ、共通言語
- 編集後記
「分化」と「統合」のジレンマ
交流会の冒頭、「分化」と「統合」をテーマにしたショートレクチャーが行われました。
分化とは、各メンバーは自らの納得と決定に基づいて自律的・自発的に行動できている状態であり、統合とは、チームとして同じ目標に向かって協調・連携している状態をさします*1。
プロジェクトリーダーは、この2つのバランスを常にとり続けなければなりません。
プロジェクトにおいて、メンバー一人ひとりが自発的に考え行動する状態を保ちながら、チーム全体がひとつのゴールへ向かう状態を生み出すこと、つまり「分化」と「統合」をうまくバランスさせるのは、簡単ではありません。
仮に、一旦、最適と思えるバランスがとれたとしても、同じ方法で「分化」と「統合」のバランスをとり続けることは容易ではありません。
プロジェクトにはフェーズがあります。環境は変わり、メンバーの状況も変わります。昨日まで最適だったバランスが、今日は通用しないということも往々にしておきます。リーダーは、変化し続けるプロジェクトのなかで、何度もバランスを取り直す必要があるのです。
そのプロジェクトの変化をとらえる拠り所として提示されたのがステイシーマトリクス*2です。

「何を作るのか(要求)」と「どうやって作るのか(技術・進め方)」、この2軸の不確実性の度合いによって、プロジェクトのリードの仕方はまったく変わります。
「要求」と「技術」どちらも明確であれば精緻なガントチャートが機能します。しかし、「要求」と「技術」が明確でない場合は、まずやってみるしかない。とにかく小さく試し、フィードバックを得ることを繰り返し進めることが求められる状態に置かれることもあります。大事なのは、「自分のプロジェクトが今、マトリクスのどこにいるのか」を見極めることで、その認識をチームで共有することも重要ではないかという議論がなされました。
実態を把握することと整理すること
では、バラバラになりがちなチームをどう統合しながら自律的に動ける状態を作れるのでしょうか?
「分化」と「統合」という問題提起を基軸に、参加者であるプロジェクトリーダーの方々に話を伺いました。
大規模なシステム統合の炎上案件を立て直したリーダーからは、「可視化」がもたらす大きな効果が語られました。
現場では「特定の機能開発が遅れているせいで、後続の全体タスクが進まない」という声が上がっていたといいます。そこですべてのスケジュールとタスクの実態をとらえることに着手し、それらを一枚のガントチャートに落とし込み、実態をできるだけ正確に把握できるように整理しました。
その結果「特定の機能開発が遅れているせいで後続の全体タスクが進まない」ということではなく、後続と思われていた全体タスクは進められることが明らかになったとのことでした。
統合がうまく行っていない際に、プロジェクトの全体像を明らかにすることで、チームの統合が生まれた例を共有してもらいました。
「燃える前の栗」を拾い、事実を突き合わせる
参加者の共感を呼んだのが、「燃える前の栗を拾う」という発言です。 問題が大きく炎上した「火中の栗」を拾うのではなく、火がつく前の「栗」をいかに拾い上げ、少しずつ関係者を巻き込んでいくかというのがプロジェクトリーダーとして大事だという話でした。草の根的に課題を見つけ出し、燃える前に課題を解決していくことが、プロジェクトを推進するうえで、プロジェクトリーダーの重要な役割になります。
プロジェクトに必要なのは綿密な計画か、ワクワクするビジョンか
議論はさらに「目標設定」のテーマへと進みます。目標をどう設定すべきかは、プロジェクトの性質によっても大きく変わります。
確実性が求められるメーカーのプロジェクトからは、こんな手法が紹介されました。走り出す前に「課題定義書」を徹底的に作り込み、ステークホルダーと何度も修正と合意を重ねる。入念なすり合わせに時間をかけるからこそ、スタートを切った後の推進力と結束力が生まれるといいます。
一方で、新規事業のように不確実性の高いプロジェクトでは、事情がまったく異なります。ガチガチの定量目標を掲げた瞬間に、メンバーのワクワク感が消えてしまう。むしろ「世界で一番好かれるブランドになる」といった野心的で定性的なビジョンのほうが、未知の領域へ踏み出すチームの強力な推進力になるのです。
ここに、先ほどのステイシーマトリクスとの接続が見えてきます。不確実性の程度によって、チームを駆動させるプロセスが変わる。綿密な計画が必要なプロジェクトもあれば、ビジョンを重視し駆動するプロジェクトもあります。プロジェクトリーダーに求められるのは、今のプロジェクトにどちらが適しているかを見極める目です。
異なる「環世界」を繋ぐ、共通言語
分化と統合における議論の終盤では、ドイツの生物学者ユクスキュルが提唱した概念である「環世界*3」という生物学の概念が紹介されました。同じ森の中にいても、人間とダニでは知覚している世界がまったく異なります。ダニには視覚も聴覚もなく、酪酸の匂いと温度だけで世界をとらえている。同じ空間に存在していながら、文字通り「別の世界」を生きているのです。同じプロジェクトに属していても、経営層、リーダー、開発メンバーでは「見えている世界」が異なっているのではないでしょうか。
では、このバラバラの世界を生きるメンバーをつなぐものの一つのヒントとして、交流会では、「期日」が重要なのではないかという意見がでました。「いつまでに、何を出すか」という時間の制約だけは全員に共通しています。だからこそ期日は、分化的な行動をするメンバーを統合する際に役立つ一つの手法となりえそうです。
編集後記
今回の交流会で改めて感じたのは、プロジェクトリーダーの仕事が「タスク管理」には決して収まらないということです。 見えている世界が異なるメンバーをつなげ、自律的な「分化」と共通目標へ向かう「統合」のバランスを取り続ける。それこそが、正解のない時代を切り拓く現代のリーダーに求められる、ケイパビリティなのではないでしょうか。


