コパイロツトでは、プロジェクトに参画しているメンバーにインタビューを行い、プロジェクトを推進するための実践知としての「良い習慣」を集めることにしました。
初回となる本記事では、この調査をはじめることになった経緯と、良い習慣を集めるための定性調査の手法についてご紹介します。
プロジェクトを推進する知見と習慣
これまで、プロジェクトをより良く運営していくために、多くの理論やフレームワークといった一般化された知見が生まれ、活用されてきました。ただし自身が関わりのないプロジェクトの運営を知ることは容易ではありません。
またこれらの知見が、実際のプロジェクト現場にどのように落とし込まれ、習慣的に利用されているのかという事例に出会う機会もあまり多くはありません。
一方でまだ社会に共有されていない、プロジェクトを推進するために習慣的に活用されている知見が、プロジェクト現場には数多く存在していることも考えられます。
この観点からコパイロツトではプロジェクト現場に参画しているメンバーにインタビューを行い、プロジェクトを推進するための実践知としての「良い習慣」を集めることにしました。
コパイロツトが提供するプロジェクトを推進するためのフレームワーク「Project Sprint」では、習慣を「身に馴染ませた一定の実践の型」であると捉えています*1。日々変化する環境において、習慣という一定の型をガイドにすることで、次の行動を模索し実践しつづけることができるのではないでしょうか。
具体的な経験を集めるための定性調査の手法
「良い習慣」はプロジェクト現場で実践されているものなので、日常の文脈における人々の発言や行為を具体的に集めることができる手法が適当です。そこで、定性調査の手法*2の一つである「インタビュー」を用いることにしました。
一般化された知見ではなく、具体性を伴った実践知をどのように活用するのか、ということにもつながるので、少し定性調査の手法についての説明をさせてください。
定性調査は、フォーマット化されていないデータを扱います。言い換えると、データを集める際に数値に置き換えることはしません。ある状況で使われた会話や道具をそのままデータとして扱います。
そのためフォーマット化されていないデータに対して、どのように分析するのかというプロセスを含めて紹介するのが一般的です。今回であれば、解釈のもとになったデータも含めてご紹介します。
具体的には以下の手順をとります。
- インタビューで集めた語りなどのデータを提示
- そこから解釈できることを示す
このような手順をとることで、「ある状況において会話や道具がどのような考えのもとで扱われているのか」といった具体的な内容を伴った「良い習慣」をご紹介できると考えています。
具体的な経験を活用するための定性調査の読み方
ここまでお読みになって「一般化された理論を演繹的に応用する」のではなく、「具体的な事例を解釈する」というアプローチは、なんだか不確実で頼りなく感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、今回の定性調査における「解釈」とは、データが示す範囲で「限定された状況下での事象に対する具体的な対応を明らかにすること」であり、知る機会の少なかったプロジェクト現場で活用されている貴重な知見です。
むしろ複雑な状況を伴うプロジェクト現場では、次の行動を模索し実践し続けるためのガイドラインとして活用できる、具体性を伴った知見*3が必要とされることが多いのではないでしょうか。
補足として定性調査では通常、あるテーマを明らかにするために一定数のインタビューの協力者を必要とします。しかし、プロジェクト現場の実践知に接する機会はあまり多くないので、一人のインタビューからでも多くの発見が得られ、有益な情報をお伝えできるはずです。そのため、できる限り具体的な事例の共有を優先します。
それでは次回から、インタビューによって発見したプロジェクトを推進する「良い習慣」を紹介していきます。
これまでプロジェクト推進を目的とした定性調査をおこなってきました。ある事象に対し、ミクロな側面である会話や行為から、マクロな側面である個人やチームが持つ文化や共通認識まで包括した調査を心がけています。現在コパイロツトではプロジェクト推進および研究開発の支援業務に携わっています。
*1:賀川こころ, 「このごろの Project Sprint」、The Project Theory Probe Journal Issue 8 May. 31 2024
*2:ウヴェ・フリック(2011)「口頭データ収集法の外観」『質的研究入門<人間の科学のための方法論>』春秋社, p.258-266.
*3:定性的な手法では転用可能性(transferability)という言葉で表されることもあります。転用可能性とは、読者が定性調査で得た知見と自分自身の置かれた状況を比較し、自身の文脈にそれを翻訳・応用させるという意味です。