2021年6月11日(金)、黒鳥社のコンテンツディレクター 若林恵さんをゲストにお迎えして、「これからの『プロジェクトの進め方』とは何か?」と題したトークイベントを開催しました。
「プロジェクト」と呼ばれるものは業界の成長・技術革新・人々の生活や意識の変化などで常に多様化しています。これからプロジェクトに携わるとき、私たちは何を考え、どのように行動したら良いのでしょうか。
今回は、書籍や雑誌製作をはじめさまざまなプロジェクトを手掛ける若林さんと、コパイロツト共同創業者の定金が、プロジェクト推進について語り合いました。
黒鳥社/コンテンツディレクター
平凡社『月刊太陽』編集部を経て2000年にフリー編集者として独立。以後、雑誌、書籍、展覧会の図録などの編集を多数手がける。音楽ジャーナリストとしても活動。2012年に『WIRED』日本版編集長就任、2017年退任。2018年、黒鳥社設立。著書『だえん問答 コロナの迷宮]』(黒鳥社・2020年12月刊行)、『さよなら未来』(岩波書店・2018年4月刊行)、責任編集『次世代ガバメント 小さくて大きい政府のつくり方』。「こんにちは未来]」「〈働くこと〉の人類学」「blkswn jukebox]」「音読ブラックスワン」などのポッドキャストの企画制作でも知られる。
株式会社コパイロツト 共同創業者/エグゼクティブプロジェクトマネージャー
プロジェクトオーナーサイドに立ち、外部パートナーとしてプロジェクトマネジメントのサポートを行う。Project Based Working 社会に向けて、プロジェクトマネジメントを常にアップデートしつづける構造を構築中。MITテクノロジーレビュー日本語版のエグゼクティブプロデューサーを務めるなど、様々な共同プロジェクトへパートナーとしても参画。
- これからの「プロジェクトの進め方」で重要な3つのポイント
- ポイント1:何かを作るためではなく、「何を作るか考える」ツールとしてのプロジェクト
- ポイント2:プロジェクトチーム内で「しっくりくる状態」をどう作るか
- ポイント3:「何のためにやるか」目的の言語化と共有の重要性
- 変化に適応しながらプロジェクトを推進するために
これからの「プロジェクトの進め方」で重要な3つのポイント
今回のトークセッションでは、哲学から時事ネタ、実際のプロジェクト事例までさまざまな領域、トピックスに話題が広がりました。その中で、これからの「プロジェクトの進め方」を考えるにあたり、私たちが重要になっていくであろうと考える3つのポイントに着目してみました。
- 何かを作るためではなく、「何を作るか考える」ツールとしてのプロジェクト
- プロジェクトチームで「しっくりくる状態」をどう作るか
- 「何のためにやるか」目的の言語化と共有の重要性
ポイント1:何かを作るためではなく、「何を作るか考える」ツールとしてのプロジェクト
はじめに話題に上ったのは、黒鳥社とコパイロツトが手掛ける主なプロジェクトの共通点について。両社とも、明確な納品物が決まっているケースが少ないこと、また特定の定型化されたソリューションを持たないことが共通しているといえます。
実際に、社会環境の変化が年々加速している状況下で、「目的をどう設定すればいいか」「どのように進めるべきか」「具体的に何を作るべきか」などの基本的な要件を、初期段階で明確にすることが難しいプロジェクトが増えているのも事実です。
黒鳥社やコパイロツトは、そうしたプロジェクトに関わってどんな役割を果たしているのか。一例として若林さんが紹介してくれたのが、イギリス政府の中でデジタル政策を担っているGDS(UK Government Digital Service)1のケースです。
GDSでは一つのプロジェクトにおいて「プロダクトを管轄するマネージャー」と「デリバリーを担うマネージャー」、それぞれの役割を担う管理者を両方置いているそうです。
デリバリーを担うマネージャーの仕事は、プロジェクトが設定した目的から外れないようにすること、プロジェクトを推進するために必要な人員構成や会議形態を考えること、実際の進捗管理をどのように行うか決めることなど。
これらは、私たちがクライアントのプロジェクトチームに参加したときに果たしている役割に非常に近しいものです。
さらに若林さんは、いま、「プロジェクト」のそもそもの役割が変わってきていることを指摘されました。
- これまでは何か作るものが明確に決まった後、それを計画通りに実施するために必要なのが「プロジェクト」だった
- 現在は実際に手を動かしてみないと、「何を作るべきか」「何から着手すべきか」を簡単に見出せない。だからといって「もっと考えろ」ではものごとが何も進まない
- それを解決するための一つのツールが「プロジェクト」であり、プロジェクトを立ち上げることがスタート地点になっていくのではないか
つまり、これまで「何かを作るため」に実施されていたプロジェクトが、「何を作るか考える」役割や機能を持つようになっているということです。
ポイント2:プロジェクトチーム内で「しっくりくる状態」をどう作るか
プロジェクトの役割・機能が複層的になる中で、マネジメントすべき対象も変化しています。計画から逆算したタスクや個人の行動を管理するのではなく、プロジェクトを推進しやすい環境や、チームの構築へ。重視したい項目が変わりつつあります。
このトピックに関連して、プロジェクトチームの中でどのように「しっくりくる状態をつくるか」という話が挙がりました。
例えば書籍や雑誌をつくるとき、若林さんご自身も「正解がわからない」「明快な答えはもっていない」ことが多いそう。しかしチームメンバーのアウトプットを目にしたときに、「これではない(=しっくりこない)」と判断はできる、と。
これは他の領域のプロジェクト推進でも同様だといえます。誰かが成功の秘訣を知っているわけでもなければ、「こう進めればOK」というマニュアルがあるわけでもない。掲げた目的やマイルストーンを皆で確認しながら、一つひとつのアウトプットや、チームのあり方が「しっくりくる状態」を目指すことが、結果的に最適なルートへとつながるのでしょう。
そうした状態をつくるために必要なこととして、若林さんは「お互い一定の解像度に達しているかどうか」「一人ひとりが手近なところで妥協せず、ちゃんと考え抜いてアウトプットしているか」という2点の要素をピックアップされていました。
ちなみに「どうしても、チームがしっくりこない状態の場合どうしていますか?」という定金からの問いに対しては、「そのときは『やめようぜ』ってなるよ」と笑いながらも、次のように答えてくれています。
- プロジェクトを進めていく中でどうしてもしっくりこない状態が続く場合は、「対象が合っていない」と考えてみる
- 例えば、書籍を作ることになっていたとしても、イベントを企画した方がマッチするのではないかなど、アウトプットの対象を変えていく
ポイント3:「何のためにやるか」目的の言語化と共有の重要性
イベント後半では、黒鳥社が現在手掛けている新しい形のプロジェクトについて、具体的な事例を交えながらお話しいただきました。
通常、書籍をつくる場合は編集者が中心となり、ライターや翻訳者、その他必要なクリエイターと製作を進めるのが一般的です。しかし若林さんが今進めているのは、20人もの翻訳者が集う参加型の書籍製作プロジェクトなのだとか。
このプロジェクトを推進していくうえで、若林さんは次のことに気をつけているそうです。
- (プロジェクトオーナーである)自分が出過ぎない
- 参加者の求めることを、どうプロダクトに落としていくかを考える
- 各自の作業が、どのように本になっていくのかを開示する
特に3つ目に挙げられたポイントは、プロジェクト推進における目的やマイルストーンの設定、プロセスの共有に通じます。
そして最後に、何かしらのアウトプット、成果物の完成がプロジェクトのゴールになっていることの危険性に話が及びました。
書籍作りであっても、他のプロジェクトであっても、重要なのは「何のためにやっているのか」「自分たちのプロジェクトがどういう意味を持つことなのか」を考え、明確に言語化して共有すること。そしてチーム全員がその目的を理解・納得した状態で、常に頭に置いておくこと。
これからプロジェクト推進の手法がどんなに進化しても、その重要性は変わることがないでしょう。
変化に適応しながらプロジェクトを推進するために
トークの中でも繰り返し二人が言及していたように、今の時代、先の変化を予測することが難しく、関わるメンバーも多様で内容が複雑なプロジェクトが増えています。
環境の変化に柔軟に適応しながら、プロジェクトを推進していく。そんな役割を担うみなさんを少しでもサポートしたいと考え、コパイロツトでは定例ミーティングを効果的に進行するためのクラウドサービス「SuperGoodMeetings」を開発し、6/1正式にリリースいたしました。
少人数でもお使いいただけますので、新しいプロジェクト推進の方法が必要だと感じていらっしゃる方は、ぜひ小さなプロジェクトからお試しください。
「プロジェクト推進を考える会」とは?
株式会社コパイロツトは創業以来「プロジェクト推進」に最大の関心を持ち、事業や独自の研究を続けています。これからさらに多様化/複雑化する社会に向けて「プロジェクトを推進させる」という考え方とスキルは重要になっていくと考えています。そこで、本勉強会では有識者の方との対話を通して以下の実現を目標としています。
- 「プロジェクト」という概念を広く捉えて、時代に合わせた意味付けをする。
- 「プロジェクトを推進させる」という考え方を定着させて、できる人を増やす。
- このレポートは2021年7月27日にコパイロツトのnoteに掲載したものです。
- 本イベントは、プロジェクト推進をサポートするクラウドサービス「SuperGoodMeetings」の正式リリースを記念して開催しました。
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イギリスで2010年に発足した新内閣が、デジタル政策を推進するために設立した機関。十数名のチームのうち、半数は民間から選ばれたITやテクノロジーの専門家が参加。わずか2年の間に、25の行政サービスのオンライン化を成功させた。↩