コパイロツトでは実際のプロジェクト推進支援をするなかで得た知見やナレッジを、独自のフレームワークとしてまとめ、日々研究を重ねながらアップデートを続けています。
それはナレッジマネジメントの取り組みにはじまり、会議・ミーティングの活用サービス「SuperGoodMeetings」の提供や、「PILOT Boat」というプロジェクト推進を探求するための活動につながっています(PILOT Boatについてはまた別の機会にご紹介します!)。
そうした活動の中に、「エクスパンシブ」と呼ばれるプロジェクトがあります。
「エクスパンシブ」は「プロジェクトの原理原則を学術研究(=知のオープンソース)に基づいてわかりやすく整理することで、実践者および研究者がともに探究できる基盤をつくる」ことを目指し、3つの活動により進められています。
- 理論研究:複雑性の高いプロジェクト推進の課題とその理由を明らかにする
- 実証研究:プロジェクトの定量/定性データに基づいた仮説検証を可能とする
- 対外発信:「複雑」を「理解可能」にすることで、議論が可能な状態をつくる
その活動の一環で、当社の八木は、インターンとしてコパイロツトに参加してくれていた印部さんとプロジェクトについての対話を続けました。その様子は2022年11月から2023年8月まで社内限定配信podcast『~Project as Practice~ プロジェクトをプラグマティズムを基に組み立て直す』として配信されました。
対話のテーマは主に以下の4つです。
- プロジェクトとは何か?
- プロジェクトの歴史の振り返り
- Project Sprintの可能性
- 探索期
とくに後半の「探索期」に入り、明確なコンパス、目指す場所がないなかで、八木は対話をしながら行きつ戻りしていたそうです。八木は週に3度、印部さんと話すことで「毎週スプリントを3回まわしているみたいになっていた」ともいいます。
それは同じ場所を行ったり来たりするのではなく、スパイラルアップ――1周回って元の場所に戻ってきたように見えて、実際には一つ上の階層に上がっていくような体験だったのではないでしょうか。それは対話すること、またその相手の力によって、何かをショートカットしつづけるような体験であり、森を育てることのようにも思えたそうです。
より遠くに行くために、誰かとともに対話しながら行く。今回の対話をその一つの事例として、また、2人がどのような対話を重ねていたのか、その内容をダイジェストでご紹介します。
1)プロジェクトとは何か?
「プロジェクトとはいったい何なのか?」という問いから、プロジェクトの定義のしづらさや考えるときの構造について語りました。
- 「プロジェクト」とはいったい何なのか。
- プロジェクトを考えるときはいくつかの階層がある。
- ①業務:日々何かしらの活動をする
- ②プロジェクトマネジメント:手法を適用し、何をするか考える
- ③複雑なプロジェクトマネジメント:手法を改善するために、プロジェクトマネジメントについて考える
- ④理論研究:「プロジェクトマネジメントについて考える」を考える
- 手法を改善する根拠を考える=プロジェクトとは何か?なぜ可能なのか?
- ②が①の、③が②の、④が③のメタ認知となっている。各階層内で問題なくプロジェクトが進んでいるときはメタ認知は不要だが、上手くいかないときには1つ階層を上げて、メタ認知をしなければならない。
- これまでは②がプロジェクトマネジメントだと思われていたが、複雑なプロジェクトであるほど、③に差し掛かっており、③を説明・検討するために④が必要になると考えられる。
2)プロジェクトの歴史の振り返り
続いて、そもそもプロジェクトの成り立ちを確認したい、という声から、Y.H. Kwak(2003)の論文を参照しながら、プロジェクトの歴史を紐解きました。第二次世界大戦から変遷をたどりつつ、論文の出版された2003年から現在に至るまでどんな流れになのかを議論しました。
- 論文内では、プロジェクトの歴史は4つのステージにわけられています
- ①Prior to 1958:マンハッタン計画からPM領域の立ち起こり
- ②1958 – 1979:アポロ計画など計画しきれないものへの対処・TQM(改善)
- ③1980 – 1994:チャレンジャー号はじめリスク管理(人のバイアス含め)
- ④1995 to 2003:アジャイル&システムとしてのアプローチ(制約理論等)。
- 2003年以降 を加えるならどうなるか
3)Project Sprintの可能性
そして今度は自分たちの話へ。コパイロツトがまとめている独自メソッドProject Sprintの可能性や意義、また、それがそもそもどういうものなのかについて問い直しました。
- Project Sprintの「ミーティングを中心に推進すれば、プロジェクトがうまくいく」というアイデアは確かにあまり他所では聞かない。同時に「本当にそうなのだろうか?」と考えるときもある。
- だが、日々プロジェクト推進をしていて「うまくいく」という実感はある。
- 例:会議が改善されるとメンバーの雰囲気も変わる
- しかし、定例会議・ミーティングの需要さ、良さを理論的に実証するのは難しい。
- ここでプラグマティズムの「コミットメント」「発話」が重要になる。
- 社会的な意味での発話行為を紐解いていかないとProject Sprintの良さ、価値は言語化できない。
- Project Sprintはそもそも、「ミーティングは無駄だ」に反抗する立場。
- 実際無駄な会議もある。だけれども、同期的に人が集まって、さまざまな人が会話をするということが重要である、といっている。そこがProject Sprintの特徴でもある。
- 他者がいる中での発言には社会的責任が生じる。複雑なプロジェクトにおいてはそれが「行動を促す発話」となる。それが複雑なプロジェクトにおける、億劫さやズレを何とかするための処方箋になるのではないか。
- プロジェクトは「小さな社会」。アメリカの哲学者ロバート・ブランダムはそれに近い見解を持っている。
- Project Sprintはプロジェクトにおける「小さな社会」を実現する観点をもっている。
- × Project Sprintはやり方の一つ
- × 単なる、アジャイルやスクラムの応用。
- 〇 プロジェクトにおける、より人間や社会に対する理解に即した方法論。
- と、そこまでをロバート・ブランダムを参照しながら考えたものの、いくつかの疑問が新たに生まれてきた。
- 発話ができるとはどういうことか?
- 既にそこに複雑なことを考えられる人間像を前提としている。
- 発話≒コミットメント(発話にはコミットメントが伴う)。「コミットメント」という概念の検証が重要そう。
4)探索期
そこから勉強会・輪読会を導入し、探索の期間は半年以上続きました。
八木と印部さんの2人で、プロジェクトについて、行きつ戻りつしながら対話を続け、結果「プロジェクトについて言い切ろうと思えば言い切れるが、プロジェクトの中で起きていることは説明できない」という地点に辿り着きます。「それでも議論しないと進めないから、共に議論することが重要だった」とも八木はいいます。
- 勉強会で使った本
- プロジェクトって結局なんだっけ?
- プロジェクトの在りよう
- プロジェクトには何が含まれるのか?
印部さんはこの探索ののち、下の記事でプロジェクトについて、一つの考えを書いています。ぜひご覧ください!
プロジェクトについての探求はつづく
最後に、八木個人が取り組み始めた活動「Project Theory Probe」を紹介します!
これはコパイロツトの活動ではなく、もっと広く、プロジェクトを可能にする原理や探査をするオープンな活動です。
プロトタイプの開発や、日頃の実践の問い直し、理論の考察などを共有し合いながら、新たな「問い」を生み出す Insight を探究しています。毎月刊行されるJournal に加えて、互いの考えを引用して可視化している Digital Gardern (Obsidian) への参加は自由とのことです。
ご興味ある方はぜひサイトにアクセスしてみてください!
東京大学大学院学際情報学府博士後期課程。開発経済、イノベーション研究を経て、現在は主に社会学(実践理論)・哲学(プラグマティズム)に基づいたプロジェクトマネジメントの理論研究を行っています。
博士課程の大学院生(2023年8月時点でD3)。専門分野は20世紀のフランス哲学、現象学。COPILOTではインターン生として、プロダクト開発(Zipadee)やCo-Park(DIVE-in JOURNEY)、プロジェクト推進研究に携わりました。
平林悠子(ひらばやし・ゆうこ)
編集者、プロジェクトマネージャー。情報発信と環境作りを担当。コパイロツトのサービス内容に加え、プロジェクトマネジメントに関する知見や魅力、コパイロツトの文化などを日々の発信で伝えられたらと思っています。