複雑かつ変化の激しいプロジェクトをより良くしていくため、うまく進めていくためには、活動を定期的に改善する仕組みが必要です。チームメンバー全員の目線を使い、プロジェクトを定期的に改善し続けていくための手法の一つとして、今回は、定例会議・ミーティングで有効活用できる「気づきトリアージ」というアクションをご紹介します。
こんな課題にお悩みの方に…
- メンバーに、もっと積極的にプロジェクトに参加してほしい
- 自律的に行動できるチームを作りたいが、思うようにいかない
- メンバーが抱えている課題をうまく拾いきれない
プロジェクトをより良くする個々の「気づき」とは
まずは、次のような状況をイメージしてみてください。
立ち上げから半年ほどが経過した、ある企業の大規模プロジェクト。ひとまずは小さくトライ&エラーを繰り返す方針で数名からなるチームが作られました。
プロジェクト自体は順調に前進しているように見えましたが、その裏側で、メンバーはそれぞれがちょっとした違和感を感じるようになったり、新しいアイデアを試すタイミングを言い出しそびれたり……そうした小さな課題が、だんだんと蓄積しつつありました。
—— このように、メンバーが抱くようになった「違和感(モヤモヤ)」や、「ひらめき(新しいアイデア、提案)」などを、ここでは総称して「気づき」と呼びます。
個々人のメンバーが感じるようになったこれらの「気づき」を、例えばひとりのリーダーが全て引き受けて解決することは非常に困難です。しかしこうした気づきを放置してしまうと、いずれ問題を引き起こしたり、メンバーが力を十分に発揮できなかったりと、プロジェクトのスムーズな進行を妨げる要因になりかねません。
だから、気づきを得た本人が「自分で」具体的な行動の提案に変えて、自分自身も納得できる解決策へと落とし込んでいく必要があります。そのための一つの手法が、今回ご案内する「気づきトリアージ」です。
トリアージとはもともと、災害医療の現場などで使われる医療用語であり、緊急度などを判断して治療や搬送の優先順位をつける行為のことを指します。
気づきトリアージを実行することにより、プロジェクトチームは次のような成果を得ることができます。
1)プロジェクトメンバーの多様性を活かし、問題を解決できる
2)自分が抱いている課題感に対して、自分で意思決定を行い解決できる
具体的な実践方法を解説
まずは「気づきトリアージ」がどのようなアクションなのか、具体的にイメージしていただくために、その流れと手法を紹介していきます。
STEP1:みんなで「気づき」を書き出し、次のアクションを考える
STEP2:次のアクションに対する助言を、他のメンバーからもらう
STEP3:これから取り組むアクションを自分で確定する
百聞は一見に如かず……ということで、上記3つのステップを意識しながら、実際に「気づきトリアージ」を行っている様子を動画でご覧ください。
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大まかな流れを、何となく掴んでいただけましたでしょうか? それではここから、一つひとつのプロセスと実施する際のポイントについて詳しく説明します。
動画で使用している「気づきトリアージ」のテンプレートも公開しましたので、ぜひお使いください。
STEP1:みんなで「気づき」を書き出し、次のアクションを考える
気づきトリアージで大切なポイントは「気づきを自分から発信すること」、そして「その気づきに対する次のアクションを、自分で考えること」、この2点です。
1)気づきを書き出す:
定例会議・ミーティングの時間を利用し、まずは5分ほど時間を取ります。付箋やチャットなどを利用し、メンバーがそれぞれの気づきを自分で書き出します。
ここでは例として、冒頭でふれた「Aさん」の気づきにフォーカスしてみることにします。
2)優先順位をつける:
気づきが複数ある場合は自分で優先順位をつけて、今日のミーティングで話す項目を決定します。「1人3分以内で話す」など、使える時間を決めておくのもよいでしょう。
3)次のアクションを提示する:
話す内容が決定したら、その日のファシリテーター担当者(リーダーではなく)が、起案者に対して次のように問いかけを行ってください。
はじめて気づきトリアージを実施する場合は、ファシリテーターから以下の4つのアクションを提示し、起案者に選択してもらうとよりスムーズです。
<起案者が選択>
A:自分のタスクにする
B:誰かにタスクをお願いする
C:誰かに情報やヘルプをお願いする
D:感想・情報を共有する
問いかけられた起案者は、自ら考えて次のアクションを選択し、他のメンバーに対して提示します。
STEP2:次のアクションに対する助言を、他メンバーからもらう
次のステップでは、自分で考えたアクションに対して、他のメンバーから助言をもらいます。(例:全員からひとことずつ/アドバイスできる人が挙手/起案者が指名する)
STEP3:これから取り組むアクションを確定する
1)次のアクションの選択:
必要な助言を得た後、起案者に次のアクションを決めてもらいます。起案者は、最終的に自分が最も納得できるアクションを選択します。
<起案者が選択>
A:自分のタスクにする
B:会議のアジェンダにする
C:別途議論する時間をつくる
D:この場で解消した
2)スケジュールを決定:
アクションを選択したら、それを着実に実行するために「いつまでに何をするのか」を起案者自身が決定します。
3)最終確認:
本当に起案者が納得できる決定になったかどうか、アクションを進められるかどうか、最後に確認します。もし起案者に不安が残っていたり、納得できない部分がある場合はそれをスルーせず、〈 STEP2 〉に戻り、追加で議論を行ってください。
気づきトリアージの時間を設けることによって、Aさんが漠然と考えていた「新ツールを導入したい」というアイデアが、会議の場で具体的なタスクになり、一歩前進しました。
繰り返しになりますが、この手法は気づきを得た本人が「自分で」具体的な行動の提案に変えて、自分自身も納得できる解決策へと落とし込んでいくことに大きな意味があります。
気づきトリアージを実践するときのポイント
気づきトリアージを実践するには、いくつかのポイントがあります。以下を参考に、ぜひみなさんのプロジェクトでも取り入れてみてください。
所要時間 | 慣れてくると、5人の会議であれば15分ほどで実施が可能。はじめは「1人3分まで」など時間のルールを決めておくのもよいでしょう |
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参加可能人数 | 制限はありません。ただし人数が多い場合は時間がかかるため、事前に気づきを付箋に書いてきてもらうなど、状況に応じて工夫は必要です |
参加対象 | 全メンバー。ただし役割や経験などから離れ、全員がフラットな状態で取り組むことが重要です |
開催頻度 | 1回限りではなく、定例会議・ミーティングの場で定期的に行うことを推奨します |
プロジェクト推進のためのナレッジ「ProjectSprint」
今回はプロジェクトを「定期的に改善する仕組み」の手法の一つ、気づきトリアージの実践方法について詳しく解説しました。
コパイロツトでは、こうした手法を含むプロジェクト推進のための独自ナレッジを体系化し、オープンソースとして公開しています。
▼Project Sprint www.projectsprint.org
「自分たちではちょっと導入が難しい…」と感じる企業の方には、導入・改善支援も行っています。
チームメンバーが自律的に活動しやすい環境、そして激しい変化に適応しながらプロジェクトを推進していく仕組みを、みなさんのチームと一緒に構築します。ご興味のある方は、お気軽にお声がけください。
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参考資料