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プロジェクトを通じての学習――我々は何をどう学ぶべきなのか

リモートワーク化の流れ、そして、プロジェクト単位の働き方の普及は、そこで仕事をする人がいかに学ぶか、ということにも大きな影響を与えているように思います。

リモートワークについて言えば、従来の対面を前提とした働き方であれば、先輩や上司がどのように振る舞っているかということが日常的に把握することができましたが、リモートワーク環境になると、MTGかチャットツール以外で他者の振る舞いを知ることができず、学びのハードルが高まっています。

また、プロジェクト単位の働き方について言えば、短い時間で成果を求められるという昨今のプロジェクトの傾向から、目の前の対応に追われてしまい、そもそも学びの時間を取りにくかったり、新たなチャレンジ・トライをしにくいために、学びの機会がそもそも得られにくいという状況がありあます。

このような状況の中で、我々はどう学び、どう成長すればよいのか。 この記事では、クラスメソッド社との取り組みの中で実施した「プロジェクトを通じての学習」を題材に、弊社目線からその意味などを論じたいと思います。

なお、本記事は、クラスメソッド社ビジネスソリューション部(BS部)佐藤さんとの連携企画となっており、佐藤さんによるブログ記事も同時に公開されています。そちらも合わせてお読みください。

dev.classmethod.jp

職場学習の現状

若手社員の育成について研究している田中氏によれば、昨今の若手社員の育成を取り巻く変化は「早期戦力化」「個別最適化」「キャリア自律支援」にあるとされます。つまり、「労働力人口の減少や事業スピードの高速化に伴い、若手社員を長期的に育てる余裕が失われ、人材育成を前倒し」する必要が出てきた中で、「一人ひとりに最適化された人材育成を行う必要」があるだけでなく、さらには、組織への貢献意欲を高めるためにも、「会社外でも広く活用できる一般的技能」を育成する必要があるということです(参考:活躍する若手社員をどう育てるか)。

このように人材育成に対する要求が高まる一方で、OFF-JT(Off the job training)やOJT(On the job training)の実施状況は減少傾向にあります。 たとえば、1986年度から2004年度まで約20年間を見ると、OFF-JTもOJT)も全体的には減少していますし、能力開発基本調査(厚生労働省)によれば、「OFF-JTに費用支出した企業割合」「計画的なOJTを実施した事業所割合」ともに令和2年度以降、減少傾向にあります。これらは、コロナウィルスの感染拡大の影響による一時的なものかもしれませんが、リモートワーク環境化における学習の難しさを表しているとも言えるでしょう。

図 職業教育訓練実施率の推移 出典:https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je06/06-3-2-07z.html

図 OFF-JTに費用支出した企業割合の推移

図 正社員に対して計画的なOJTを実施した事業所割合の推移 出典:https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/104-03b.pdf

プロジェクトにおける学習の難しさ

職場での学びがこのような傾向にある中で、「プロジェクトにおける学習」はさらに難しい問題を抱えています。

「プロジェクト」は、一般的には「独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施する、有期性のある業務」(PMBOK)と定義されるものですが、プロジェクトを通じて行われる学習には以下のような難しさがあります。

学習時間を確保することの難しさ

  • 「有期性のある業務」と定義されているように、プロジェクトには納期などの期限があるが、そこに向けて目の前の仕事をスピーディーにこなしていく必要があり、学習の時間をほとんど確保できない

固定的ではない関係性の中で行わなければならない

  • 複数のプロジェクトに同時にアサインされる場合には、それぞれ異なるプロジェクトリーダー・プロジェクトマネージャー・メンバーとやり取りする中で学習する必要がある(時に初対面の関係であることも少なくない)

学び続ける必要性

  • しかし、「独自のプロダクト、サービス、所産を創造するため」というプロジェクトの特性上、あるプロジェクトで学習したとしても、別のプロジェクトでも、その独自の価値を生み出していくために、学び続ける必要がある

何を学ぶべきことを事前に定義できない

  • たとえばDX(デジタル・トランスフォーメーション)では「変革」が求められるが、変革について十分な経験を持っているということは少ないために、昨今のプロジェクトは、何を学ぶべきかが事前に定義できない
  • そのため、学ぶべきこと自体を学んでいく必要がある

プロジェクトにおける学習を捉えるためのフレーム

では、プロジェクトは学習をどのように行えばよいか。 ここでは、「個人・グループ・組織」の視点から学習を捉えたモデル(下記)をベースに考察します。

図 クロッサンらによる4Iフレームワーク 出典:コア・テキスト組織学習(安藤史江)

安藤氏は、このモデルの特徴を以下のように指摘します。

  • まず個人レベルでの洞察や直感から組織学習サイクルが始まる
  • 洞察から生まれた個人の新たなアイディアは、他の組織メンバーと対話したり組織的な解釈が加わったりするうちに、他のメンバーと共有され、次第に個人学習の域を超えたグループレベルの学習活動へと変わっていく
  • グループレベルの学習は同時にいくつも組織内で発生するが、組織として統合されたとき、組織内での記憶・定着が図られ、制度化される
  • いったん制度化されると、組織メンバーの価値観や行動に影響を与え、再び個人レベルの洞察や直感が喚起される

つまり、個人・グループ・組織の関係性の中で、それらをお互いに行き来しながら学習が行われるということです。

ところで、このようなプロセスを通じて、我々は何を学習しているのでしょうか。 組織学習について研究している安藤氏によれば、何をもって学習が行われたかという「学習の対象」には「知識の変化」「行動の変化」「認知の変化」「ルーティンの変化」があげられると指摘します。

図 学習の対象 出典:コア・テキスト組織学習(安藤史江)をもとに筆者にて作成

安藤氏によれば、これらは論者によって意見が分かれており、認知面の変化が伴っていない学習は組織学習ではないという論者もいるとのことですが、本記事では学習を広く捉え、「知識の変化」も学習の対象に含むものとして考えたいと思います。というのも、組織学習論の観点からは必ずしも本質的ではない「知識の変化」も、プロジェクトにおける学習においては非常に重要であり(目の前の業務において、今すぐ成果を出す必要がある)、また、「知識の変化(共有)」によって学習の意義・価値がプロジェクトチーム内に産まれ、より本質的な学習のきっかけにもなっていくと考えられるためです。

クラスメソッド社BS部で実施している学習についての取り組み

では、クラスメソッド社BS部のプロジェクトでは、実際にどのような取り組みを行ったのか。前述のクロッサンの4Iフレームワークをベースにしながら、BS部での取り組みをマッピングしたものを下図にその概要を示します。詳細は、クラスメソッド社佐藤さんによる下記の記事をご覧ください。

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図 クラスメソッド社BS部で実施している学習についての取り組み ※これまで「プロジェクトにおける学習」という視点から論じてきたが、BS部の取り組みでは、組織レベルでナレッジを共有する取り組みも行っていたため、上図にはその点も含めて記載している

まず、先ほどの「学習の対象」(知識の変化・行動の変化・認知の変化・ルーティンの変化)について考えると、厳密な判断はできず、あくまでも米山目線の仮説になりますが、個人・プロジェクト・組織の各層での学習を通じて、知識の変化・行動の変化・認知の変化が生まれているのではないかと考えられます。たとえば、技術やプロジェクトマネジメントについての知識を理解するだけでなく、プロジェクトでのふりかえりや個人の内省を通じて、PJメンバーがプロジェクトにおける行動を見つめ直したり、プロジェクトマネージャー同士の対話の場を設けることによって、プロジェクトマネージャーの「認知の変化」(物の見方や世界観の変化)も生まれているように感じています。

「個人個人における内省」の重要性

上記のように、「プロジェクトにおける学習」も様々な要素から成り立つものです。その意味では、学習は個人の努力だけによるものではなく、プロジェクトや組織の環境・仕組みが重要なのは当然です。しかしながら、何より重要なのは「個人個人の内省」ではないかと考えています。

たとえば、前述の「クロッサンらによる4Iフレームワーク」における「まず個人レベルでの洞察や直感から組織学習サイクルが始まる」という点や以下の指摘にあるように、最終的には「自分自身との内省を通じた探索」が不可欠です。他者から技術やマネジメントのやり方を共有してもらうだけでなく、それを自分自身の振る舞いと照らし合わせながら意味づけるような作業こそが学習であり、下記で福島氏が指摘する「形から型への変化」といえるものでしょう。そして、そのプロセスこそが、「知識」が単なる「知識」にとどまらず、「認知」や「ルーティン」レベルの学習に発展(個人の中での消化・発酵)されていくプロセスなのではないかと考えます。

ここで形とは、弟子による師匠の形式的な模倣であるが、これだけでは学習は完結しない。
そのうえを目指すには、様々なわざ言語による謎かけのような問いかけに対して、弟子側のある種の意味の「探索」が行われる必要がある。
そうした主観的な内省を経て初めて、形は型に変化するというのがここでのポイント
である。

(学習の生態学ーーーリスク・実験・高信頼性(福島真人))

大事なことは、一人で考えることをおろそかにしないことだ。
アンダース・エリクソンは、超一流の熟達者ほど一人での練習に時間をかけるという結果を発表している。世界クラスのチェスプレーヤーたちに、一人で勉強する時間とトーナメントで試合する経験とでは、どちらが大事かを聞いたところ、一人で勉強する時間のほうが大事だという答えが大半だったそうである。

協調学習をしさえすれば主体性が身につくわけではない。やりかたが悪ければ、むしろ他人任せの学びを助長してしまう。
超一流の達人に共通したことは自分の学びを自分で工夫していることだ。自分の現状を的確に分析し、弱いところ、克服するべき課題が自分でわかり、自分でそのための学びを工夫できる。
そのような自律的な学び手になることこそ、学校教育の目標とするべきだ。
そしてそれを支援できるように指導者は自分の学びを深めていかなければならない。

(学びとは何か――〈探究人〉になるために(今井むつみ)

プロジェクトでの学習において、プロジェクトマネージャーは何をすべきなのか

では、そのような学習を行っていくために、プロジェクトマネージャーは何をすべきなのか。 プロジェクトマネージャーとメンバーとの間での学習ということを考えるとき、「徒弟制」が学習形態の1つとして想起されますが、前述の「プロジェクトにおける学習の難しさ」を踏まえると、徒弟制も現実的ではありません。福島氏が指摘するように、徒弟制は「こうした制約に比較的縛られないような構造を前提としており、それに基づく学習のモデルは、この時間的制約の重要性を等閑視している」と言えます。

徒弟制が難しいならば、プロジェクトマネージャーはどうしたら良いのか。 中原氏は、職場で行われている学習について、「他者からどのような支援を受けているか」ということを調査し、以下の分析結果を示しています。

(出典:職場学習論新装版(中原淳))

この知見をベースに考えますと、プロジェクトマネージャーは上表で言う「上司」もしくは「先輩」として、直接的には「内省支援」と「精神支援」のみをメンバーに対して行い、「業務支援」については「行わない」もしくは「メンバー同士で業務支援が行われやすい環境を作る」という部分を役割にすると良いのではないか、と考えることができます。もちろん、「内省支援」と「精神支援」も簡単なものではなく、プロジェクトマネージャーにとって時に大きな負担にもなる役割ではありますが、「業務支援まですべて抱える必要はない」ということは、プロジェクトマネージャーの負担を軽減するという意味では重要な点だと思われます。

人と一緒に、人に頼らずに

昨今のプロジェクトは非常に速いスピード感を求められるものであり、従来の徒弟制のようなスピード感では、学習がその必要性に追いつかない状況が起こります。となると、プロジェクトマネージャーがなるべくサポートしつつも、基本的には、プロジェクト全体として「学習」「内省」が行われるような仕組みを構築するしかなく、その場づくり・環境づくりがプロジェクトマネージャーの役割といえるのではないでしょうか。

しかし、前述のように、最終的に重要になるのは「個人個人の内省」であり、各自が学ぼうとするスタンスです。

認知科学、発達心理学を専門とする今井氏は学びについて、「人と一緒に、人に頼らずに」(学びとは何か――〈探究人〉になるために)と指摘しますが、この言葉に、プロジェクトを通じた学習のエッセンスが表現されているように思います。

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執筆者 米山知宏(よねやま・ともひろ)Facebook / Twitter
プロジェクトファシリテーター、プロジェクトコンサルタント。 プロジェクト・組織の推進をプロジェクトマネージャーとして関わりながら、プロジェクト・組織の未来に必要なナレッジ・知を言語化するサポートをしています。 対象分野は民間企業のDX領域が中心となりますが、シンクタンク・パブリックセクターでの勤務経験から、公共政策の立案・自治体DXに関する業務も担当しています。

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