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北欧のボトムアップ型プロジェクトからどんな学びを得て、これから何を実践していく?[三社合同公開勉強会レポート]

半分は自分たちのためのたゆまない勉強の機会として、半分はプロジェクトマネジメントの裾野を広げるために、私たちは「プロジェクトマネジメント夜話」と題した三者合同公開勉強会をはじめました。以前、NEWh・ロフトワーク・コパイロツトの三社合同で行った「プロジェクトマネジメント」をテーマにした座談会から、ゆるやかに発展したものです。

▼前回のイベント(2022/7/11開催) blog.copilot.jp

今後、それぞれのメンバーがプロジェクトマネジメントにおいて実践したことの共有、プロジェクト推進に関するお題に対する打ち返しタイム、ゲストを招待してのPM解体新書など、盛沢山の内容で継続的に開催する予定です。

第一回目となる今回は、北欧の研究出張から帰ってきてまもないコパイロツトの八木から、「北欧で見たボトムアップ型プロジェクト」についてお話しました。

今回はその発表内容の一部を、ダイジェストでお届けします。

▼スピーカー

八木翔太郎/株式会社コパイロツト
東京大学大学院学際情報学府博士後期課程。開発経済、イノベーション研究を経て、現在は主に社会学(実践理論)・哲学(プラグマティズム)に基づいたプロジェクトマネジメントの理論研究を行っている。総合商社の全社ITプロジェクト、米国財団法人のプログラムマネジメントに携わり、現在はコパイロツトにて様々なプロジェクトの伴走支援をするほか、プロジェクト研究のコミュニティであるProject Sprint Questの推進、共創型オンラインカレッジ(Project Climbing Challenge)の企画を通じて、新しい価値を創造するプロジェクトチームのための方法論を探究している。

▼モデレーター

岡本あかねさん/株式会社NEWh・ProjectManager
学生時代は人文社会学・社会教育学を専攻。卒業後はNPOに参画し、デザイン思考的アプローチで日本全国の地域課題・社会課題解決のためのプロジェクトを実践。その後、デザインコンサルティングファームに参画し、企業の事業開発・サービス開発 をプロジェクトマネージャーとして支援。2021年1月より現職。個人活動として、NPOや一般社団法人のプロジェクトマネージャー・コミュニティマネージャーを務める。人と人が出会うことで生まれる不確実なものにおもしろさを見出し、立場を超えた共創的アプローチで日々プロジェクト課題に向き合う。

▼パネリスト

上ノ薗正人さん/株式会社ロフトワーク・京都ブランチ共同事業責任者
九州大学芸術工学部環境設計学科卒業。2017年よりロフトワーク京都に入社。web制作、コミュニティデザイン、空間プロデュースからデザインリサーチまで様々な領域のプロジェクトに携わる。2021年PMP®(プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル)取得。社外活動として、同年6月に知人の創業にジョインし共同代表としてPMO的業務を担当、2022年度より九州大学大学院芸術工学府非常勤講師としてプロジェクトマネジメントの講義実施など、プロジェクトマネジメントのナレッジを様々な場所・形で活かし伝える取り組みを行っている。
PMP®取得時インタビュー
プロジェクト事例


デンマークとスウェーデンへの研究出張

今回、スピーカーとして参加した八木は、コパイロツトで働くのと並行して大学院にも在籍し、現在、主に社会学や哲学に基づいたプロジェクトマネジメントの学術的な捉え直しを行っているメンバーです。

「私が着目しているのは実践理論です。これまでの社会学では、例えば家族や会社、政府といった社会的存在を前提として社会を紐解こうとしていました。でも近年、ブリュノ・ラトゥールをはじめとする研究者により、そもそも社会というよくわからないものを、そうした抽象的で不明瞭な単位で説明するのは説明にならないのでは、という批判がなされてきました。そこで着目されはじめているのが”実践”です。一方で、まさに私たちプロジェクトマネージャーが日々改善しているのは実践なので、理論と実践が交差しはじめている潮流があるともいえそうです」(八木)

その研究活動の一環として、八木は2022年7月初旬〜9月中旬まで、欧州(デンマーク、スウェーデン)への研究出張へ。フィールドワークや研究者との議論を重ねる中で、大きな刺激を受けて帰国しました。

ゴールや価値などからトップダウンで組み立てるのではなく、多様なメンバーやステークホルダーのニーズを満たすことを大前提に展開されていく創発的なプロジェクトとはどのようなものか。どんな発想や条件でそれが可能となり、それが複雑性の対処にどのような意義を持つのか——コパイロツトで取り組んでいるプロジェクト推進研究とも照らし合わせながら、本人の解釈を交えて発表してくれました。

キーワード1:「プロジェクト以前」

「今日は“プロジェクト”の話はしません。“プロジェクト以前”について、語らせてください」 勉強会は、八木のそんなコメントからスタートしました。

この夏、彼が訪れたのは、プロジェクトを通してチェンジメーカーを育成する「Kaospilot」(デンマーク)と、多種多様な研究者がサステナビリティに向けたプロジェクトを展開している「Stockholm Resilience Centre」(スウェーデン)です。

「私は以前から、彼・彼女らの働き方に興味を持っていました。その直接的なきっかけとなったのは、2018年、Kaospilot生2人が日本を訪れた際に、一緒に働く機会に恵まれたことです。そのとき、彼らが『プロジェクトのキックオフ前に2-3か月、認識を揃えるアライメント期間を設けると、プロジェクトは上手くいくんだ』と言っていて衝撃を受けたんです。今思えば当時の私は理解ができていませんでした」(八木)

日本でいうところの「プロジェクト」が、キックオフ後にスタートするものだと定義すると、Kaospilotではそのプロジェクト以前に行う活動を「Preject」と呼んでいるそうです。

「Conection before context」を合言葉に、プロジェクトが開始して文脈が形成される前に、プロジェクトチームメンバー同士がお互いのことをよく知る時間を設け、もっと大きな価値観、バリューのようなものを全員で共有しながら、働き方などについて話す時間をつくるというものです。

具体的な活動例としては、次のようなものがあったそうです。

  • メンバーが1対1で「なぜ」を深ぼるインタビューを実施し、最終的にはその内容を全員で共有する
  • 「なぜ我々がここにいるのか」を言語化するために、付箋を使わず口頭でステートメントを改善していく。違和感があるときにはハンドシグナルで表明し、改善したステートメント案を述べる
  • 植物園のような気持ちの良い場所で、ファシリテーターがメンバーのために手料理をふるまうといった手間をかけながら、互いに気にかけあうことの重要性を自ら強調していく

「そんなことに時間をかける意味があるのか? と思う人もいるかもしれませんが、実はこの時間こそがキックオフ後のプロジェクトの成否に大きく関わってくるそうです」(八木)

キーワード2:「“WANT"から広がるコラボレーション」

Stockholm Resilience Centreでも、想定外の出会いが。「サステナビリティ」という大目標からブレイクダウンしたテーマをメンバーで分担し、一つひとつのプロジェクトを構造的に設計して研究活動を行っているのかと思いきや……実際は個々の研究者が、自分が「いい!」と思ったコラボレーションを現場でどんどん立ち上げ、自由に活動していたそうです。

「そこで働くメンバーに『自分が行ったタスクが、どう成果に寄与するかなんてわからないよ』と言われて、正直はじめは『そんなことでいいの?』と思いました。でもサステナビリティに関わる課題は複雑性そのもの。それに対処するには複雑適応系として動くしかないわけで彼・彼女らはまさにその通りに活動していました」(八木)

サステナビリティを目指すための“MUST”を描くのは非常に難易度が高い。一方で、人は自然環境や社会の一部なので自分たちが感じている“WANT”の中に調和に向けたベクトルが含まれているわけです。そこで彼・彼女らは自ら仮説を立て、社会を巻き込んで活動し、新しいデータを得て次の仮説を導く。それを繰り返して前進しているのだといえます。

キーワード3:「稼働時間の40%を自由に使う」

他にも八木は今回、もともと親交のあった大手金融ソフトウェア会社「SimCorp」で働くアジャイル・コーチをたずね、話をする機会を得ていました。そのSimCorpでは、メンバーそれぞれに対し、自分の稼働時間の40%にあたる時間を好きなプロジェクトに費やすことを推奨していたそうです。

これはかつてGoogleが実施していたことで有名になった、稼働時間の20%を将来的な活動に充てる「20%ルール」を大きく上回る取り組みです。

「40%の時間を自分の好きなプロジェクトに使える、ということは、裏を返せば、有無をいわさず自分の意思でのぞむプロジェクトに参加することになりますし、該当するものがなければ自分自身で立ち上げる必要がある、ということでもあります。その結果、主体的に関わるメンバーによってプロジェクトがドライブしていくそうです」(八木)

プロジェクトの根幹に必要となる「ケア」の概念とは

このように複雑なプロジェクトを前にして、メンバー個々人の“WANT”を最も尊重しているこれら北欧の現場は、一見すると矛盾しているように思われます。

しかし改めてその要因を紐解いていくと、その必然性が自ずと浮かび上がってきました。

複雑なプロジェクトを進めるために求められる重要なポイントとして3点挙げられます。

1つ目は、多方面の専門家をアサインすること。さらにいうとそれぞれの専門家が、きちんと意見を言える環境を整えることも重要です。
2つ目は、予期されない問題が発生したとき、各々が状況判断を行い柔軟に対処していくこと。
3つ目は、状況によって当初の想定外の役割も担う、すなわち学習をしていくことです。

「これらを成し遂げるためにどうすればいいか? と考えてみると、個人のWANTを尊重することで、誰にとっても『このプロジェクトが成功しないと自分自身の自己実現も成り立たない』という状態をつくり、プロジェクトメンバーのエンゲージメントを高めることは、とても理にかなっているんですよね」(八木)

さらに、これらを実現するキーワードとしてあげられるのが、「ケア」という概念だそうです。

「Stockholm Resilience Centreで実践理論も研究するSimon Westさんによれば、実践としてのケアとは『多様な他者を積極的に認め合う場を作る(全員の自己決定権を尊重するし、尊重されていることを積極的に確かめ合う)行為』だとのこと。

実際、ケアが実践されていれば、情報が透明であることが担保され、プロジェクトの構想段階から参加している意識を持つことができます。そして違和感が生じたときに何でも言い合える関係が構築されていれば、専門外の領域の仕事であっても安心して任せ合える信頼関係が生まれます。

そうしたことが結果的に心理的安全性を確保し、エンゲージメントを高めることにつながり、複雑な状況にも対処できるプロジェクトチームを生み出すのではないでしょうか」(八木)

学びをこれからどう活かしていくか?

八木からの発表が終了した後、モデレータの岡本さん、パネリストの上ノ薗さんと、参加者のみなさんからの質問などを交えながらクロストークが行われました。それぞれが取り組んでいるプロジェクトマネジメントの具体例を挙げながら、「この部分が今回でいうケアに当たるのではないか」「こうした実践をクライアントワークで取り入れるには」などのトピックについて話が盛り上がりました。

この「プロジェクトマネジメント夜話」では、今後もプロジェクトマネジメントについてのさまざまなテーマを取り上げ、実践のための学びやヒントを得ていく予定です。

会社情報
株式会社NEWh
https://newh.co.jp/

株式会社ロフトワーク
https://loftwork.com/jp/

株式会社コパイロツト
https://copilot.jp/

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