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どのように「卓越的な助言」をチームに浸透させるのか [プロジェクトを推進する「良い習慣」]

コパイロツトでは、プロジェクトに参画しているメンバーにインタビューを行い、プロジェクトを推進するための実践知としての「良い習慣」を集めることにしました。

初回は、この調査をはじめることになった経緯と、良い習慣を集めるための定性調査の手法について紹介しました。

今回は、「プロジェクトに多様な意見を取り込む」ための「良い習慣」を紹介します。具体的には、他者からの意見や指摘を、どう受け止め、また受け入れるかどうかの判断を各自で決めていい、という共通認識を作っていくための「良い習慣」についてです。

なお、『プロジェクトを推進する「良い習慣」』では、定性的なデータを紹介する際には、以下のような手順で説明しています。

①インタビューで集めた語りや使用された道具など、数値に置換されていないデータを提示
②そこから解釈できることを示す

そのため①の部分は、とくにわかりづらい表現になっているケースもあります。ただ今回は「定性的なデータからどのような解釈をおこなったか」というプロセスを含めてお伝えするため、可能な限りご本人の語りのニュアンスを残す形としています。

プロジェクトに多様な意見を取り込む「卓越的な助言」

プロジェクトのチームにおいて、誰しもお互いの意見をフラットに伝えあうことができればいいなと考えることはあるでしょう。ただし、上司や部下、教師と学生といった上下関係が発生しやすい関係であるときに、一方が話し続け、他方は意見を言わず聞き手に回る、という構図に出くわす場面は少なくはないのではないでしょうか。

今回、このような状況に活用できる「良い習慣」について、プロジェクトマネジメントに約25年携わり、複数の事業立ち上げ経験をもっているAさんにインタビューを行うことができました。Aさんは現在、大学で実務家教員もしており、大学でのある場面を思い出して、「良い習慣」について話してくれました。

Aさんが自身の「良い習慣」に気づいた背景を簡単に紹介します。

Aさんは大学での授業を受け持つ他に、以下の二つのプロジェクトを実施しています。

a.学生との相談会 b.企業協働プロジェクト(地域活性化を目的とした企業と大学の協働プロジェクト)

「a.学生との相談会」では、学生の日々の生活での疑問から学生自身で設定したプロジェクトの進め方や課題について議論の場を設けていました。

ある日、Aさんが担当している「a.学生との相談会」に行政職員の方が見学に来ていました(①)。

▲場面のイメージ

行政職員の方は、学生含めたさまざまな年代や背景を持つ人たちが参加する場の作り方について、考えていました。Aさんの授業で、場を作っている中心人物がどのような立ち振る舞いをしているのか、ヒントを得たかったようです。

授業後、Aさんは行政職員の方から「いい感じに対話が進んでいますね。何かコツやポイントがあるんですか?」と尋ねられたといいます(②)。

そこでAさんは少し考え、ふと「b.企業協働プロジェクト」のことを思い出しました。

「教員」と「学生」や、「クライアント」と「学生」の関係において、学生側が「全ての助言を受け入れようとする」態度を見かけるときが多々ありました。一方向での対話では、多様な意見をプロジェクトに取り入れられない可能性があります。

その際に、Aさんはコミュニケーションのあり方を捉え直すため「卓越的な助言」と「修正的な助言」というコミュニケーションのナレッジをプロジェクト内で共有したことを思い出しました。そのことを行政職員の方に回答しました(③)。

「修正的な助言」と「卓越的な助言」とは、Harvard Business Reviewで掲載されたADPリサーチ・インスティテュート人材・パフォーマンス部長のマーカス・バッキンガム氏らの「フィードバックの誤謬」*1の内容を参考にAさんが整理したナレッジのことです。整理したナレッジについては後に説明します。

質問への回答を聞いた行政職員の方からは、「見学した授業も卓越的な助言が取り入れられたような授業でしたね」との感想をもらったとのことでした(④)。

Aさんが「フィードバックの誤謬」を基に整理した「卓越的な助言」とは

「フィードバックの誤謬」では、フィードバックは純粋に善だという既存の考え方に疑問を投げかけています。助言には伝え手の主観が入るため、必ずしも助言の受け手にとって有効とは限りません。加えて、卓越性は個々人によって異なるため、必ずしも定義できるものでもありません。

そのため、一方向的な助言がいつでも有効であるということに対し疑問をなげかけ、個々人によって異なる卓越性を引き出すための助言の提案がなされています。

上記のことから助言にも種類があることが示唆されています。Aさんはその記事から助言のタイプを「修正的な助言」と「卓越的な助言」、2つの種類に分類しました。

▲修正的な助言と卓越的な助言のスライドの一部

  • 修正的な助言:それほど多くはないが定義可能な活動や知識を元に指示・指導し、効果のあるタイプの助言。参考書類では航空機のコックピットや手術中のチェックリストが挙げられている。
  • 卓越的な助言:個々人によって異なる卓越性を認識・定着・再現させ、磨きをかけることを目指す助言

また「フィードバックの誤謬」では、受け手が自身の卓越性に気づくための態度についても言及しています。例えば、「いい仕事ぶりだね」と言われたら「どの辺りが・何が効果的だったか」を聞いてみようというものです。フィードバックは伝える側と、受け取る側の共通認識を持つことが重要なように思われます。

加えて、Aさんは「フィードバックの誤謬」から得た「卓越的な助言」というキーワードをより良くプロジェクトで活用できるように、類似した手法や理論の比較、事例の参照を加えてナレッジの整理を行っていました。

今回はAさんにインタビューに協力いただいたことで、助言を伝える側の視点から「卓越的な助言」というナレッジの運用について具体例を集めることができました。

では、ここからはAさんがどのように「修正的な助言」と「卓越的な助言」というナレッジを扱っているのかを紹介していきます。

(1)プロジェクトにおいてなぜ「卓越的な助言」が必要なのか

「卓越的な助言」が必要とされる背景について、Aさんから聞きました。

「もちろんプロジェクトの性質にはよるんですけど、プロジェクトっていうものが多様な人が多様な観点で意見を言ったりとか物事を進めるみたいなことをやらない限り成立しない活動だと私は思っているので」

「(プロジェクトに)多様性を持ち込みやすくするっていう環境づくりとしてこの卓越的な助言っていう存在、そもそも卓越的な助言という存在を知らない人も多いんで」

変化の激しい環境でプロジェクトを進めるには、多様な人の意見を取り込まないとプロジェクトは進まないとAさんは捉えています。そのため、プロジェクト内でのコミュニケーションにおいて卓越的な助言の重要性が語られている場面です。

(2)「卓越的な助言」と「修正的な助言」の説明

「卓越的な助言」と「修正的な助言」のナレッジを学生に説明する際には、資料を用いて紹介するとのことでした。資料では文字だけではなく図も多く用いられていることがわかります。また「卓越的な助言」の具体的な例をまじえて説明しているとのことでした。

「この資料このまんまで説明をよくします」

▲Aさん作成のスライドの一部を抜粋

指摘されてそれ直さなきゃみたいなものを修正的な助言って言っていて、卓越的な助言っていうのはそれぞれの個性がいいところを見つけて伸ばしてあげるみたいな」

プロジェクトのコメントっていうのは、それぞれのメンバーが個性を生かせなきゃダメだっていう前提にあると思うので、この全てのコメントを卓越的な助言として捉えた方がいいんじゃないですかと」

プロジェクトでは多様な意見を取り入れることが重要であるため、個々の個性に合わせて助言を取り入れる卓越的な助言の重要性を説明している場面です。次に卓越的な助言の説明だけではなく、紹介するタイミングについてもお話し頂きました。

(3)ナレッジの紹介をするタイミング

知見を誰かに共有する際、伝えるタイミングについて、どの程度意識しているでしょうか。

Aさんは目的に応じて、卓越的な助言をどのタイミングで紹介するかについては、状況的な判断をおこなっていることが下記のインタビューで述べられています。

「(最初に説明しても)実感としてあんまり得られない時に、この話(卓越的な助言)してもよく分からないじゃないですか。あんまり一生懸命説明することに時間を使うよりは、ちょっとやってみて、なんか私が言ってること全部左側(修正的な助言として)で受け取ってません?みたいな。そういう話をしながら、あっそうだね、みたいな感じの納得とともに浸透させるために、最初からあんまり言わないことが多いですかね」

「受け取る方が取捨選択しようみたいな話はその場で私が言ったりするんで、これ卓越的な助言だから自分で反映したいものだけしてね、みたいなことをことさら言うようにしてるんで。それでちょっとずつ聞くようになってくるって感じかな」

上記のインタビューから、体験した後に「修正的な助言」と「卓越的な助言」のナレッジを用いて振り返る、という順序で進めていることがわかります。単にナレッジを紹介するだけでなく、普段の会話の中でも卓越的な助言を利用しているようです。一方で下記のような場面では、最初から卓越的な助言の説明を行うこともあるとのことでした。

「最初に定例会議の型みたいなものを決める時、決めたアジェンダの中で卓越性みたいなものがないと成立しないなってものがあるときは、最初から説明する。ないときは最初に説明しないって感じですね」

独自の方法論があるんですけど、今思ってることを何でもいいから気づいていることを出してもらって、それをみんなでアジェンダにしていくみたいなそういう動きがあるんですけど、その時に卓越的な助言がないと成立しないので、そのアジェンダを成立させるときに一緒に説明している

発言の中の「定例会議の型」とは、会議の全体設計やアジェンダの作り方を指しています。

その定例会議の型の構成要素として、つまり目的に必要な道具として卓越的な助言を利用する場合は先に説明するとのことでした。

上記の内容からわかることは、学習を目的としてチームにそのナレッジを浸透させていく場合は、経験学習的に体験の後から振り返る際にナレッジを利用し、目的達成のための構成要素として利用する場合は最初から説明するという使い分けをしているということが示されています。

ここまでは会話の場面における卓越的な助言の説明と、その運用方法について紹介しました。次に会話ではなく環境を作る取り組みについて紹介していきます。

(4)ツールを利用した環境づくり

Aさんは卓越的な助言に基づいたコミュニケーションを促すために言葉で説明したり、日頃の会話で理解させること以外にも次の取り組みを意識して行ったりしていたとのことでした。

「あのオンライン付箋とかチャット使うとかって、何か偉い人がずっとしゃべり始めて誰もしゃべれないみたいな状態を、会議の進め方を工夫することで、そういう状態を作らないように構造的にしようとしてるつーことの影響の方が大きいのかな」

卓越的な助言の重要性を情報として伝えたとしても、環境が整わなければなかなか実践することが難しいことが想像されます。そこでAさんは、オンライン付箋やチャットなどのツールを導入することで、「修正的な助言」の態度ではなく、卓越的な助言が行いやすいようにコミュニケーションを取り巻く環境づくりにも取り組んでいることがわかります。

環境づくりはツールの導入にとどまりません。教員と生徒の立ち振る舞いも含めてAさんが環境づくりをおこなっていることが次の内容からわかります。

(5)授業における教員と学生の関係の作り方

卓越的な助言を学生が理解していたとしても、授業では教員が教卓に立ち、学生が先生の話を聞くという構図ではやはり修正的な助言の態度に近づいてしまうのではないでしょうか。

そこでAさんの授業の進め方を伺うと、先生が学生に一方向的に教えるという教授的な手法を用いていないとのことでした。

「もうそれぞれのメンバーが好きに喋ってる。で、ちょっと話が止まって、ちょっとファシリテーション的には僕は介入しますけど、ソリューション的な介入はほぼしないです。もちろん(学生から)Aさん、どう思います?って聞かれたら答えますけど、いち参加者として僕も参加してるって感じですね」

参加者としてフラットな感じで私も参加してるんで、私が喋ろうが喋るまいがあんまり意識は違わないはずなんだけど、プロジェクトを進めるぞみたいな話だと、(学生がAさんに対して)私の方が圧倒的経験が長いことは分かるので、そういうなんかこうリスペクトはしてくれてるような受け取り方をするとは思います

上記のインタビューから、学生は専門性をもった教員に対して、知識を一方的に伝える存在として捉えておらず、「卓越的な助言」の態度をもって授業が進んでいるのではないかということが考えられます。

専門性を持ったAさんに対しては、問題が生じた時に相談する相手として捉え、基本的には学生自身でその場を自律的に進めている関係であるとのことでした。

まとめ

これまでのインタビュー内容からAさんの良い習慣をまとめると「プロジェクトに多様な意見を取り込むための環境づくりとして、卓越的な助言を共通認識として運用する」ということになります。

卓越的な助言を取り入れるため、ただ知識を伝えるということにとどまらず、さまざまな実践が行われていました。下記の項目として整理しました。

①「卓越的な助言・修正的な助言」の資料を用いて説明する
②目的に応じて「卓越的な助言&修正的な助言」の導入のタイミングを変える。
 ・学習が目的の場合は経験学習的なアプローチを取り、先に体験させ、後から振り返る際に
  「卓越的な助言&修正的な助言」が導入される。
 ・定例会議の型を決めることが目的の場合は構成要素として先に「卓越的な助言」の説明を行う。
③「修正的な助言」で受け取る構造になりづらいようにオンライン付箋などツール導入する
④学生に対して教授法的な立場をとらず、ファシリテート的に介入する立場を取る

一般的に知見を伝える際にナレッジ自体の共有(①)で済ませてしまう場合も多いのではないでしょうか。ナレッジを共有するだけではプロジェクト内の実践は変わらないかもしれません。

Aさんは「卓越的な助言」というナレッジの説明(①)を、目的に応じて共有するタイミングを変えていました(②)。また日常的な会話でも卓越的な助言を導入し意識づけを行っていました。またツールを導入し修正的な助言で受け止める構造になるのを妨ぎ(③)、教員と学生の関係においても解決策を教える立場ではなく、ファシリテートする立場をとり、卓越的な助言で運営しやすい関係性をとっていました(④)。

今回は詳細に取り上げることができませんでしたが、教員と学生の関係だけではなく、企業内での上司と部下という関係でも「修正的な助言」はよく行われているということもお伺いしました。

今回のインタビューで得た「良い習慣」をさらに深めるために他のプロジェクトのメンバーからの意見を取り入れたり、また企業内でどのように卓越的な助言を導入できるかというテーマでインタビューもできればと考えています。

今後も、プロジェクト現場で活躍するメンバーからプロジェクト推進のための「良い習慣」を紹介していく予定です。次回の記事にもぜひご期待ください。

執筆者 武富 拓也(たけとみ・たくや)
これまでプロジェクト推進を目的とした定性調査をおこなってきました。ある事象に対し、ミクロな側面である会話や行為から、マクロな側面である個人やチームが持つ文化や共通認識まで包括した調査を心がけています。現在コパイロツトではプロジェクト推進および研究開発の支援業務に携わっています。

*1:マーカス・バッキンガム, アシュリー・グドール(2019)「フィードバックの誤謬」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー(2019 年 10 月号)』

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