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ナレッジ・マネジメントとは、「人」と「知」の関係性をデザインすること

以前のコパイロツトがナレッジ・マネジメントで目指すもの - COPILOT BLOGでは、ナレッジとは何かということについて整理しましたが、今回は、「ナレッジ・マネジメントとは何か」「ナレッジ・マネジメントのマネジメントが意味するものはなにか?」ということを考えてみたいと思います。

ナレッジ・マネジメントの役割は、「理解」を積み重ねていく状態をつくること

ナレッジを蓄積するための情報システムを導入するだけではナレッジ・マネジメントは機能しないということは以前から指摘されてきました*1。実際、「「うまく情報が集まらない」「情報はたまったが、それを知識として活用できない」といった問題に直面する企業も多い」と言われています*2

ではどうするかということで、ナレッジを生み出したり共有したりするための「場」の必要性が指摘されてきたわけですが、ここで重要なのは、情報やナレッジを受け取る側がそれを「理解」できるかどうか、ということです。たとえば、リアルな場で学術的理論のような極めて正しいはずのナレッジが伝えられたとしても、ナレッジの受け手がそれを消化できる状況になければ、それは何も伝えていないのと同じです。知識の客観的正しさと理解できるかどうかは、全くの別問題だということです。

組織としてのナレッジ・マネジメントが機能するかどうかを左右するのは、「私が共有した情報・ナレッジをあの人が理解してくれた」という1対1関係における「理解」の積み重ねです。つまり、いきなり組織全体的な理解が生まれるのではなく、まずは目の前の他者と理解を共有できるかどうかにかかっているということです。そのような1対1関係における「理解」を積み重ねられるような状態をマネジメントすることがナレッジ・マネジメントの役割であり、そのために具体的に何をどのようにマネジメントする必要があるのか、ということをあらためて考える必要があります。

ナレッジ・マネジメントがマネジメントすべきもの

以上の問題意識から、ナレッジ・マネジメントは、以下の3つの関係性を総合的にマネジメントする必要があると考えています。

①「知」と「知」の関係
②「人」と「知」の関係
③「人」と「人」の関係

①「知」と「知」の関係

1つ目は「知」と「知」の関係ですが、具体的には以下の4つの観点から考えることができます。


図 「情報」と「ナレッジ」の関係



1)「情報」→「ナレッジ」

業務・プロジェクトを通じて蓄積された現場レベルの具体的な情報をもとに、フォーマットやノウハウなどのナレッジが創出される状態をマネジメントするプロセス。

2)「ナレッジ」→「情報」

何らかのフォーマットにもとづいて具体的な情報が蓄積されていくなど、ナレッジをきっかけに情報が生み出される状態をマネジメントするプロセス。
1)で創出されたナレッジを改善・ブラッシュアップしていく上で不可欠となるプロセス。

3)「ナレッジ」←→「ナレッジ」

創出されたナレッジ同士の関係性をマネジメントするプロセス。
たとえば、仕事を円滑に進めるためのナレッジとしては、「フォーマットやフレームワーク」と「ノウハウ」(例:仕事を進める上での留意事項やFAQ的なもの)の大きく2種類にわけることができますが、これらのノウハウはそれぞれが単独ではなく、お互いに関係性を持ちながら体系化されることで、より使いやすいナレッジにすることができます。ナレッジ同士の関係性をマネジメントすることもナレッジ・マネジメントでは非常に重要なプロセスです。

4)「情報」←→「情報」

具体的な情報同士の関係性をマネジメントするプロセス。
たとえば、プロジェクトの情報を組織的に共有する場をマネジメントすることにより、「あのプロジェクトとこのプロジェクトで同じ問題が発生している。それならば、ナレッジ化して、問題が発生しないような仕組みを作ろう」というような、上記1)の流れを生み出すことに繋がります。

②「人」と「知」の関係

次は、「人」と「知」の関係です。
「人」と「知」の関係では、「誰が何を求めているか」ということと「誰が何を知っているか」という情報が共有されやすい状態をつくることが非常に重要です。「人」と「知」の関係に関する情報が組織的に共有されていないと、必要な情報やナレッジが必要な人に届かず、組織としての学習の質も向上しません。

③「人」と「人」の関係

最後は、「人」と「人」の関係です。
誰が何を求めているか、誰が何を知っているかという「人」と「知」の関係を把握していたとしても、実際に、ナレッジを持っている人からそのナレッジを必要としている人にナレッジが流通するためには、「人」と「人」の関係が構築されていることが重要です。もちろん、システムを介することで人間関係を介在させることなくナレッジをやり取りすることもできますが、直接的な関係でなければ共有できない暗黙知的な情報・ナレッジを共有していくためには、この視点が不可欠です。
オフィシャルな目的ありきのコミュニケーションだけではなく、無目的の対話(雑談など)を通じて、「聞きたいことを気軽に聞くことができる安心感ある関係」や「他の人/組織のために伝えたいという関係」を作っていく必要があります。

過去の蓄積が創造性の源泉

このように考えてきますと、本来ナレッジ・マネジメントとしてやるべきことは「ナレッジ」の「ネットワーク」の「デザイン」であり、「ナレッジ・ネットワーク・デザイン」という方が適切な表現のようにも思えます。

情報は、人に解釈されてはじめて情報としての意味を持つものです。情報は単独で存在しているのではなく、人との関係において存在することができるものです。
また、情報と情報との関係を考えた場合にも、情報は他の情報とつながることで、情報としての価値を高めることができます。

そのことを表す一つの言説として「過去が未来を創造する」「過去の蓄積が創造性の源泉である」というものがあります。

たとえば、情報学を専門とする西垣通は、グループウェアについて論じた書籍*3の中で、以下のように指摘しています。

協調活動を支援するグループウェアがしなくてはならないのは、表層意識だけではなく深層に潜む<過去>に目をむけることだろう。遺伝子にせよ、言語にせよ、情報コードそのものに、過去が沈澱している。人間のもつ膨大な遺産の様々なイメージをモンタージュすることが、逆説的に新鮮なクリエイションにつながるのである


また、写真家・映像人類学者である港千尋は、記憶について論じた書籍*4の中で、

記憶は創造の要である。(略)記憶は創造であり、創造は記憶である


と指摘しています。

記憶されていた過去の情報と現在の情報がつながることで、我々個人の中でも創造性が発揮され得るのと同様に、組織や社会においても過去の情報と現在の情報がつながる仕組みをデザインすることで、創造性を生み出すことができるのではないだろうか。

情報やナレッジを独立した単独のものとして捉えず、他の情報・ナレッジや人との関係性において存在するものとして捉える。
その上で、様々な情報・ナレッジが「時間」や「空間」を跨いでつながるような仕組みをデザインする。
そのことにより、ナレッジ・マネジメントの取り組みは、より生き生きとしたものになるのではないかと思います。




執筆者 米山 知宏(よねやま・ともひろ)
プロジェクトファシリテーター、プロジェクトコンサルタント。

プロジェクト・組織の推進をPMとして関わりながら、プロジェクト・組織の未来に必要なナレッジ・知を言語化するサポートをしています。
対象分野は民間企業のDX領域が中心となりますが、シンクタンク・パブリックセクターでの勤務経験から、公共政策の立案・自治体DXに関する業務も担当しています。


blog.copilot.jp

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*1:https://www.jstage.jst.go.jp/article/randi/20.2/0/20.2_867/_pdf

*2:https://japan.zdnet.com/article/20238628/

*3:組織とグループウェアーポスト・リストラクチャリングの知識創造(西垣通)

*4:記憶ー「創造」と「想起」の力(港千尋)

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