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情報処理機能としてのティール組織/ホラクラシー

今年の1月に「ティール組織」の日本語訳が出版されて以来、「ティール組織」や「ホラクラシー」という組織についての新しい考え方がしばしば話題になっている。それらは、一般的には「上司と部下、肩書などに基づく一般的なピラミッド型の「ヒエラルキー組織」とは違う組織形態」(日本経済新聞*1)と言われるもので、組織を「生命体」のようなものとして捉える考え方であるが、それぞれ以下の特徴がある。

ティール組織
  • 【セルフ・マネジメント】 階層やコンセンサスに頼ることなく、仲間との関係性のなかで動くシステム
  • 【ホールネス】 私たちの精神的な全体性(ホールネス)が呼び起こされ、自分をさらけ出して職場に来ようという気にさせるような、一貫した慣行
  • 【存在目的】 将来を予言し、統制しようとするのではなく、組織が将来どうなりたいのか、どのような目的を達成したいのかに耳を傾け、理解する
ホラクラシー
  • 「ゲームのルール」を明示し、権限を再分配する憲法を制定する
  • 組織を構築し、人々の役割と権限の及ぶ範囲を規定する
  • それらの役割と権限をアップデートするための意思決定プロセスを導入する
  • チームを常に最新の情報に同期化し、一緒に仕事をやり遂げるためのミーティング・プロセスを導入する

ティール組織やホラクラシーは、上記の記事にもあるように、「ヒエラルキーではない組織構造」を構築していくことが目的のように思われるかもしれないが、その本質は「組織構造」ではなく「組織の情報処理」にある。このことはあまり言及されていないように思うが、非常に大事な点であるように思う。なぜなら、情報こそが組織の活力の源泉であり、たとえ、いくら組織構造が素晴らしいものであっても、情報が適切に流通しなければその組織は機能せず、また、情報が蓄積されなければ、組織を次世代に繋いでいくこともできないからである。

情報の重要性を端的に表現した文章が「ホラクラシー」の中に書かれている。

組織には、飛行機と同じようにさまざまなセンサーが備え付けられている。ただしランプやメーターではなく、”人間が”その役割を担い、組織のためになるよう現実の世界にアンテナを張り巡らせているのである。組織の「センサー」がある重要な情報を熟知していながら、無視され、その情報が処理されずに終わってしまうことがよく起こる


組織は、それが属する世界の中で対処すべき事柄について、どうやって認識するのだろう?ーーー私たち一人一人が持つ、周りの現実を感知する能力を利用している


今の組織のデザインが、あまたのセンサーから入ってきた情報に基づいてちゃちゃっと進化していけるようなシロモノではない


つまり、情報を「感知」し、それを「処理」し、さらには情報に基づいて「進化」していくためには、従来型の組織では限界があるということである。

その問題を解決するヒントが、「ホラクラシー」の語源となった「ホロン」にある。 ホロンは哲学者アーサー・ケストラーによって生み出されたものであるが、彼によればホロンは「それ自体で全体としての性質を持つが、より大きな全体の部分になっているもの」とされる。もし「部分」だけであれば常に他との情報処理に膨大なコストがかかり、また、もし「全体」だけであれば自分だけでは処理できない情報が溢れてしまう。「部分」であるとともに「全体」であることにより、情報は効率的に処理される。

※(全体)それ自体完全でそれ以上説明を要さないもの

※(部分)それだけでは自律的存在とは言えない断片的で不完全なもの

※「部分と全体」に関係する話として、日本軍の組織について論じた「失敗の本質」が参考になる。それによれば、組織は「『分化』と『統合』という相反する関係にある状態を同時に極大化している組織が、環境適応にすぐれている」ということであるが、第二次世界大戦の日本軍は「大本営といっても、陸・海軍の作戦を統合的に検討できるような仕組みにはなって」いなかったために「部分」が「部分」として機能(=「統合」)していなかったとともに、「現場第一線における戦闘単位の自律性を制約」していたために「全体」が「全体」としても機能(=「分化」)していない組織であった。

そのような都合の良いものが存在するのかという疑問を持たれるかもしれないが、実は我々人間を含む「生命体」がホロン構造で構成されている。


体という側面を見れば、生物は循環器系、消化器系などの<亜全体>(サブホール)で構成される全体であり、その亜全体は器官や組織などより低次の亜全体に分岐し、さらにそれは個々の細胞に、その細胞は細胞内の小器官に・・・とつぎつぎ分岐していく


そして、ここで重要なのが、「脳が人体の司令塔になり、他の臓器はそれに従う」のではなく、「体中の臓器が、互いに直接情報をやりとりしている」「全身すべての細胞が声を掛け合いながら調和しながら、私達の生命が維持されている」ということである*2。 もし同様の話が組織においても適用できるのであるならば、単にフラットな組織であったり、権限が委譲されているということだけではなく、必要な情報が必要なときに組織内を循環することこそが重要であるように思える。実際、ホラクラシー型の組織では、個人が感じた「ひずみ」(違和感情報)を組織内に流し、改善する回路が埋め込まれている(例:ホラクラシー憲法、ガバナンス・ミーティング、リードリンク、レプリンクなど)。この情報処理機能の意義を理解せずに、表面的な組織構造だけを導入したならば、その組織はすぐに機能不全に陥る。

この点において、「ティール組織やホラクラシーはヒエラルキー型の組織構造を否定するものである」という言説は誤解である。先ほどから述べているように、組織として情報を適切に感知し処理できるかどうかが大切なのであって、ヒエラルキーかどうかということは問題の本質ではない。ホロンの生みの親アーサー・ケストラーが言うように、<樹枝化>(ヒエラルキー)と<網状化>(ネットワーク)は、生物構造、社会構造における相補的原理なのである。



(執筆:米山知宏

*1:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO35198940Q8A910C1TJ1000/

*2:NHK「シリーズ人体-神秘の巨大ネットワーク」(2017年)

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