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1枚絵で理解するホラクラシー〜Role とTension〜

以前の投稿でまとめたように、コパイロツトでは「ティール組織」や「ホラクラシー」などの組織づくりの考え方に高い関心を持っています。

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現在、社内へのホラクラシー導入を試行しているところですが、導入にあたっては、まずはこちらの本「ホラクラシー」の内容に忠実に進めています。しかし、ホラクラシー独特の用語が多く、全体像とそれぞれの関係性が見えずらいので、これだけは理解しておくべきことを1枚絵1にまとめました。

今回は1枚絵にまとまりきらなかった部分も含め、ホラクラシーを導入する際に理解しておいた方が良いと思われることを複数回に分けて書いていきたいと思います。 1枚絵はこちら。

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1枚絵

ホラクラシーの概要

ホラクラシーは従来の組織のデザインの限界に対しての新しいアプローチです。 例えば、ホラクラシーでは、人間ではなくRole(役割)2を主役にしますが、人間を主役にした場合の問題点について、「ホラクラシー」ではこのように記載しています。

現代の組織文化においては、個人と個人が担う役割は表裏一体であり、そのために人も組織もいろいろな点でやりにくくなる。 例えば誰かについて抱く感情とその人が担う役割について抱く感情を切り離すのはなかなか難しい。 組織の中で揉め事が起こると、本当は役割に関する衝突なのに、その役割を担う人たちの対立だと取り違えてしまうことがある。

この問題を解決するために、ホラクラシーでは「Role(役割)」と「Tension(ひずみ)」という2つの概念を組織運営の中心的な考えとして位置づけています。

(1)人と人の関係ではなく、RoleとRoleの関係で、組織を運営していく

ホラクラシーでは、上記でも記載したように、人間とRoleを別々のものとして捉えます。
お互いが担うRole同士の関係性に着眼し、人間同士の個人的なつながりとは切り離して考えます。

例えば、営業担当と経理担当が予算について対立した場合、これは感情的な問題ではなく、ホラクラシーの言い回しを使うと、二人ともただ、自分のRoleを「稼働」し、責務を「実行に移している」だけと言えます。 これら二つのRoleの間で優先順位や期待が衝突すると、Tension((2)で解説)を生じるわけですが、これを機会と捉えれば、組織全体の目的からみて、お互いのRoleと期待すべきことを明瞭にするチャンスでもあります。

(2)Tensionを感知し、それを解決すること

ホラクラシーにおいて、業務は基本的に感知されたTension3を中心に回ります。 Tensionとは現状とより良い状態の間のギャップのことを表し、「ホラクラシー」の中でTensionを感知する能力についてこのように書かれています。

人間に与えられた素晴らしい才能の中でも、今この瞬間に不協和を感知し、変革の余地があることを見通す能力

休むことも飽きることも知らないクリエイティブな精神であり、私たちを常に現状よりも高みへと導いてくれるものだ。

また、Tension自体も否定的な意味にとらえるのではなく、「改善すべき問題」の場合もあれば、「利用すべき機会」の場合もあり、「ホラクラシー」では例え話で表現されています。

両手でグィーンと引き伸ばされたゴムひものように、私たちが感知するひずみには膨大なエネルギーが蓄えられている。そのエネルギーを利用して、感知されたポテンシャルの方向へ組織をぐぐっと引き寄せることができるのだ。

Role と Circle

ホラクラシーの構成要素である、RoleとCircle4について説明します。

Roleとは何か?

Roleは、Purpose5、Domains6、Accountabilities7で定義されているホラクラシー組織の最小単位の構成要素です。 「ホラクラシー」の中ではこのように端的に書かれています。

個人個人が、自分の領域や仕事の範囲内で、問題に「局所的に」対処する権力を与えられる必要があるのだ。その際、他のみんなにお伺いを立てたり、権限を授けてくれるようにリーダーに許可をとったりしなくてもよいことが大切だ。

Roleは権力を分散させるために、明確なPurpose、Domains、Accountabilitiesを定義しているとも言えます。

Circleとは何か?

CircleはRoleを束ねたRoleの集合体であり、それ自体もPurpose、Domains、Accountabilitiesが定義されています。

Circleは、組織全体が含まれる最大Circleのことを特にAnchor Circleと呼び、Circle同士の相対的な関係性において、外側のCircleをSuper-Circle、内側のCircleをSub-Circleと呼びます。

RoleとCircleの関係性については「ホラクラシー」の中でこのように書かれています。

この手の構造は、自然が作った体系として身の回りにいくらでもある。例えば、粒子が作用しあって原子が生まれ、原子同士が結合して分子になり、分子がまとまって結晶やタンパク質を構成するという場合、それぞれの要素は部分であり、全体でもある。

つまり、例えるのであれば、原子がRole、それらが結合した分子がSub-Cirlce、分子の集合体の結晶がSuper-Circleとも言えます。原子それ自体で完結しているけれど、分子として結合した場合は、分子の一部となり、分子自体もさらに大きなものの一部となっています。 それぞれ、原子の状態での特性、分子の状態での特性、結晶の状態での特性は異なりますが、原子<分子<結晶...でそれぞれ内包されています。

さて、ここまでの説明でRoleごとにPurpose、Domains、Accountabilitiesが定義され、自分の権限を行使できる空間が確保されているということが理解できたと思います。

そして、権限を与えられ、行使できるということが自由だとすれば責任も伴います。

この場合の責任は、権限は与えられているけれど、実際にそのRoleは、きちんとそれらに見合う行動をしているのか?期待に答えられているのか?ということになります。

それらを明確にするために、Metrics8、Projects9、Checklists10、Next-Actions11というものを公開すること、説明することが各Roleに義務づけられています。

ここまでで説明した1枚絵はこの部分です。

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ホラクラシーストラクチャー

以下、社内でホラクラシーの説明会を実施した際のQAです。 Q1.Role、CircleはPurpose、Domains、Accountabilitiesが定義されるとありますが、全ての定義が必須ですか? A1.Domainsは必須ではないですが、Purpose、Accountabilitiesは必須です。

Q2.1つのRoleに複数人アサインすることはできますか? A2.可能です。その場合は、仕事内容が重複したり権限の所在が曖昧にならないよう、Focus(それぞれの人がRole遂行で集中する文脈や役割)を定める必要があります。

Q3.何もRoleを持たずにCircleに在籍する人はいますか? A3.ホラクラシーは人とRoleを切り離して考えています。まずRoleを設定し、それに見合った人をアサインするのでRoleを持たずにCircleに存在する人はいません。

Q4.一人いくつまでRoleを持てますか?
A4.いくつでも可能です。ホラクシーは一人一人が自律した組織であるため、個人のセルフマネジメントが重要になります。RoleはCore Roles以外、Lead Linkによる任命ですが、自分の意志で断ることができるということが重要なポイントでもあります。

Tensionの感知と解消方法

Tensionとは何か?

組織の目的実現と現状とのギャップです。

Tensionを組織が進化、成長することに繋がる機会として捉えているので、問題という言葉ではない表現を使っています。

ホラクラシーではTensionを解消し、ゼロにすることを目指しています。

つまり、ホラクラシーを運営する上で一人一人が感知したTensionを無視せず解消していくことが大切です。 Tensionの大まかな解消フローは以下です。

(1)Tensionを感知したRole(以後Proposerと呼ぶ)はそのTensionをCircle Memberに対して、見える化する(Meeting12もしくは、Meeting以外の場)

(2)FacilitatorはProposerと共に、Tensionの内容を明確化する

(3)Facilitatorの元、Circle Memberと一緒に、TensionからProposalにして、それを磨く

(4)Circle MemberがProposalに合意し、Tensionが解消される

(5)Secretaryが記録を更新し、組織全体に公開する

ここまでで説明した1枚絵はこの部分です。

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Tensionの解消方法

Core Roles〜ホラクラシー独特のRole〜

これまでの説明でホラクラシーの組織構造とTensionの関係性が大まかに理解できたと思いますので、Roleについてのより詳しい説明に入っていきます。
Circle作成において、必ず設定しなければならないホラクラシー独特のRoleがあります。
ここではそのRoleの決め方、Purpose、Domains、Accountabilitiesの内容について説明します。

まず、必ず設定しなければならないRoleのことをCore Rolesと呼びます。 そのRoleとは、Lead Link、Rep Link、Facilitator、Secretaryです。 ただしAnchor Circleの場合はRep Linkは設定不要です。(理由はQ1,A1参照)

Lead Link:誰かをRoleに任命したり、仕事の優先順位をつけて目的を達成するための構造を構築するRole

決め方:Super-CircleのLead Linkによる任命
Purpose:Circleと同じPurpose
Domains:Circle内のRoleの任命
Accountabilities:Circleの目的実現、目的実現のための戦略、指標、優先順位を示す
Core Roles以外のRoleの任命、Roleの適合性監視と任命し直し
CircleのリソースをCircle内のRoleに適切に割り当てる

Rep Link:Circleの障害になっているTensionを外側のCircle(Super-Circle)へ伝え解決するRole

決め方:当CircleのCore Circle Memberによる選挙
Purpose:TensionをSuper-Circleに伝え、解決する
Accountabilities:Circle内で解決できないTensionの対応、Super-CircleへCircleのMetrics、Checklistsを報告

Facilitator

決め方:当CircleのCore Circle Member13による選挙
Purpose:CircleのGovernance14とOperations15が憲法16に沿って行われていること
Accountabilities:Meetingの進行、CircleのGovernanceとOperationsが憲法に沿って行われるようにすること

Secretary

決め方:当CircleのCore Circle Memberによる選挙
Purpose:Circleの公式の記録と記録管理プロセスを安定させること
Domains:憲法で必要と定められたCircleの記録全て
Accountabilities:Meetingのスケジューリングと参加者への告知
Meetingの成果を捉え、CircleのGovernance、Checklists、Metricsの維持管理
要請に応じ、Governanceと憲法の解釈

ここまでで説明した1枚絵はこの部分です。

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Circle内のRole

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Core RolesとCircleの関係性
以下、社内でホラクラシーの説明会を実施した際のQAです。
Q1.なぜAnchor CircleにはRep Linkは不要なのですか?
A1.イメージとしてRep LinkはCircleの情報やTensionを外側のCircleへ伝え、Lead Linkは外側のCircleのTensionや情報を内側(当Circle)に伝える役割を担っています。よって、Anchor Circleの場合は、外側のCircle(Super-Circle)が存在しないため、Rep Linkは不要となります。

Q2.Sub-CircleのLead Linkの任命条件は?
A2.A1より、Lead Linkは外側のCircle(Super-Circle)のTensionや情報を内側(当Circle)に伝える役割のため、Super-Circleに籍を置く人の中から任命されます。

Q3.Core Roles以外のRoleはどのようにして決まるのですか?
A3.当CircleのLead Linkが任命します。

Q4.Core Rolesになれない人はいますか?
A4.当Cirlce内でRoleを持っている人でかつ選挙のMeetingに参加権利のある人(Lead Linkが決める)であれば誰でも可能です。Lead LinkはFacilitator、Rep Linkにはなれないという制約はありますが、その他のRoleは掛け持ち可能です。

まとめ

初めにも書きましたが、ホラクラシーにおいて重要なことは以下2つに集約されます。
Roleの要素を定義することRoleとRoleの関係性の中で、各々がTensionを感知し解消することです。

ホラクラシーでは、個人と個人が担うRoleとを明確に区別することがポイントです。
組織が目的を追求するために様々なRoleが必要で、それに基づいて組織の構造が決まるのであって、組織の中の特定の「個人」を念頭においているわけではありません。そして、人間は後からやってきて、担当者となり、Roleを「稼働」します。
ホラクラシーを理解するにあたり、個人ではなく、Roleに基づいて考えるという思考の転換が必要となります。

(執筆:伊藤真佑美)


  1. コパイロツトでは概要をA3・1枚にまとめたもののことを1枚絵と呼んでいます。

  2. Roleの日本語訳は役割ですが、コパイロツトでは英語のまま使っています。ホラクラシーで定義されている役割とはどういったものかについての詳しい説明は2.Role と Circleで説明します。

  3. Tensionの日本語訳はひずみですが、コパイロツトでは英語のまま使っています。

  4. ホラクラシーでは、本来、組織図を書く際にRoleとCircleを両方とも円で表しますが、1枚絵では分かりづらいのでRoleは円、Circleは破線の円で表しています。

  5. Purpose:Roleの存在理由、Roleが達成しようとしているゴール

  6. Domains:Roleが組織の代表として独占的な権限で制御できるもの

  7. Accountabilities:Roleに与えられた遂行する権限、期待されること

  8. Metrics:Circleの目的に沿っているか計測する指標であり、Circleの現状が理解できるデータ ex) 進捗率、サイトPV数など数値で測れるもの

  9. Projects:Actionの集合体。つまり、複数の行動ステップに分解しないと達成できない成果

  10. Checklists:ルーティン。つまり、毎週、毎月、四半期ごとなど定期的に実行する行動リスト

  11. Next-Actions:具体的な次の行動

  12. ホラクラシーでは2 種類のMeetingを実施します。Governance Meeting:Roleの新設、削除、更新、Circleルールの決定 Tactical Meeting:CircleのRoleごとの進捗、Checklists、Metricsの共有と他Roleへのアクションリクエストを行う Proposal:提案

  13. Circleの主要メンバー。Core Circle MemberかどうかはLead Linkが決めます。

  14. Governance:Circleの構造やルールに関わること。これらを決定、更新するためにGovernance Meetingを開催。

  15. Operations:Roleの日々の仕事に直接関わる具体的なこと。これらをスムーズに進行させるためにTactical Meetingを開催。

  16. 憲法:Meetingの進め方や報告内容、議論の仕方、Core Rolesの権限など、ホラクラシーにおけるルールが記載されています。

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