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広義のKJ法(実践編)~取材学~

これまで、KJ法の哲学について長々と紹介してまいりました。意外に長くなってしまった、、

KJ法のデータに対するスタンス~客観とは何か?~

さて、本日はKJ法の実践編ということでコパイロツト社内で行った勉強会の様子をダイジェストにお届けしていきたいと思います!

その前に、KJ法のデータに対するスタンスというのを再確認したいと思います。重要なポイントは厳密に「客観的」なデータなど存在しないという前提です。野中郁次郎も良く引いている相互主観(フッサールの現象学の用語)とも繋がる考え方ですが、人が認識できる時点でそれは人のフィルタを通しているのであり「主観」であるわけです。

2018年ナレッジマネジメント学会大会 野中郁次郎先生 講演資料より

はて?と思う方は思考実験をしてみましょう。まず、定量的であれば客観的でしょうか。例えば「この村は人口の30%がうつ病だ」というデータがあったとします。しかし「それは多い」と感じるのか「意外と少ないな」と感じるのかは人によって異なるのではないでしょうか。逆に、定性的であれば客観的ではない?そうでしょうか。「鳥居の後ろに深い闇を感じた」というデータがあったとします。これは確かに誰もが納得できる話じゃないかもしれませんが、その時その場所で記録者が感じた紛れもない事実なわけです。

本来、「客観」「主観」というのはグラデーションであり、そういった境界が曖昧な概念だということを理解していただきたいと思います。なぜこういった認識が重要なのでしょうか。例えば「客観とは多くの人が共有している主観(相互主観)である」、と捉えなおすと「客観性」の危険性を理解できると思います。平たく言えば客観的で皆が納得できるデータというのは「当たり前」であり、ともすると「アテハメ」に陥って現実を見れられない結果を招く恐れもあるわけです。

これまでのエントリーで、自分の文化圏の解釈を当てはめずにまっさらに解釈する文化人類学からKJ法が生まれたと述べました。そして、「解釈せずに解釈せよ」という禅問答の答えは、上述の通り、「考えるな、感じろ」という訳です。なので、KJ法の前提となるデータ収集においても、個人の感じ得た定性情報は事実として受け入れるべきだということは忘れないでおきましょう。

実験科学とKJ法(野外科学)の発想の違い

さらに言えば、我々が「データ処理」と考えた時に立脚している「実験科学」と、KJ法の立脚している「野外科学」は発想が根本的に異なります。感覚を掴んでいただくために以下に纏めてみました。

川喜田二郎「発想法」(1970)をもとに執筆者作成

両者とも経験界を対象としますが、実験科学が再現性のあり測定可能な「自然」を想定しているのに対し、野外科学では2度と繰り返せない測定不能な事象までも「自然」と捉えています。つまり、客観的で再現的なものなんて無いでしょうという諸行無常の悟りです。また、実験科学は対決的な姿勢を持っており仮説をもとに事象に当たりますが、野外科学はデータを受け入れる姿勢で事象に当たります。

それもそのはず、実験科学は仮説を前提に分析(仮説検証)を行うプロセスである一方で、野外科学は仮説に至るプロセス(仮説発想)であり普段無意識に行っている領域であるわけです。詳しくは、川喜田先生が書籍に纏めているので、こちらをご参照いただければと思います。

やってみよう!広義のKJ法、まずは取材学から

それでは早速、その具体的手法に入っていきましょう。前回もお話しした通り、KJ法は大きく以下のプロセスに分割することができます。

①取材学(パルス討論→多段ピックアップ)
②狭義KJ法(グループ編成)
③狭義KJ法(A型図解・B型文章化)

今回は、「①取材学」の部分の内容をご報告したいと思います。狭義KJ法を行うために必要なラベルを集める重要な作業ですね。

◆テーマ決め(問題提起)

まずは調査にはテーマが必要です。どんなデータを集めるのかに関わりますのでしっかり文章化しておきましょう。グループで合意したものにすべきです。これも話すと長くなるのですが、人も情報の束であることを踏まえると、合意してモチベーションを揃えることは1つの大きなKJ法でもあるわけです。KJ法と民主主義が表裏一体である所以です。

衆目評価法

川喜田二郎は、誰もが納得できて簡便な投票方法として「衆目評価法」が提案しています。これは案を決める際に単に幾つかに投票する(ドット投票)のではなく、全ての案に従量投票を行うというものです。8つ案があれば、自分の中で1番に8ポイント、2番に7ポイント、、8番に1ポイントを与えます。この合計値で採択案が決定するのですが、この方法を使うと自分が思っていたのと異なる案が採択されても不思議と納得感があります。ぜひお試しあれ。

◆ラベル集め(パルス討論)

本来の文化人類学的なフィールドワークなどであれば、現場に出てインタビューであったり行動を共にしながらメモを取ってデータを集めるところです。とはいえ、人の頭の中も得体が知れないという意味では「野外」。簡易的ですがディスカッションを通して出たデータを「ラベル」として集めていきます。

パルス討論

なぜこの手法を「パルス」と呼ぶのかというと、「討論(ワイガヤ)→ラベル清書→ラベル配置」を繰り返して探検マップというものを作っていくプロセスが、脈打つようだからです。今回はひと脈およそ20分で2回繰り返しました。

  • 討論(ワイガヤ)

    テーマについてフリーディスカッションをしながら、気付いたこと思い出したことをメモしていきます。討論の内容はあくまで呼び水であって、テーマに関することであれば手元にどんどんメモします。この際に点メモという、思い付きを単語で線で結びながら速記していく方法が非常に有効です。ただし、この点メモは自分でも数時間で書いた内容を解読できなくなるので、すぐに清書を行いましょう。

  • ラベル清書

    討論がひと段落したら、静まり返って個人作業です。点メモに言葉を補って、第三者が読んでも理解できるようにシールラベルに記入します。

  • ラベル配置

    次に探検マップという形式でラベル模造紙にを配置していきます。中央にテーマを書き、近くに誰かがラベルを1つ読み上げながら配置します。他の人は、自分も似たラベルを持っていれば近くに付け札として配置します。それらは線で繋げましょう。一通り終わったら、線で繋がったクラスターを囲んで分かり易い名前を付けましょう。

このプロセスは議論に360度の質的バラエティがあるか(バイアスなくデータを集められたか)検証するために可視化するためなので、クラスター化や名前付けも厳密でなくて大丈夫です(巷のなんちゃってKJ法はこのプロセスですね)。終わったらシールは張り付けて探検マップとして保存しておきましょう。いつか参照するかもしれません。

  • 多段ピックアップ

パルス討論を繰り返して、データの質的バラエティを確保出来たら、ラベルを選ぶ作業に入ります。なぜなら、この次の狭義のグループKJ法は恐ろしく時間が掛かるため、可能な限りラベルの数を減らしておく必要があるからです。

  1. 目標枚数を決める
  2. 第一回ピックアップを行う 各々がペンを持ち、欲しいラベルには右下に点を打っておく(既に点が打ってある場合には打たない)
  3. 第二回~ピックアップを行う 1つ点が打ってあるラベルのうち、やっぱり欲しいものに点を追加する。このプロセスを目標枚数×1.3枚程まで続ける。
  4. 最後のピックアップを行う 赤ペンを1本だけ使って、1人1枚ずつラベルを読み上げながら囲んで選ぶ。今回は8人だったので2周して16枚

最後に、選ばれたラベルを読みやすく清書して終わりです。お疲れさまでした!

次回は、選ばれしラベルをまとめ上げていきながら発想に繋げていきます。狭義グループKJ法前半のグループ編成です。

(執筆:八木翔太郎)

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