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知的生産ツールとしての議事録

一般的に、「議事録」というものは実に可愛そうな扱いをされているように思う。 議事録を書かなければならない人にとっては面倒くさい作業で、議事録を読む側もさらっと目は通すものの、それほどのありがたみを感じていない。

しかし、本来、議事録は創造性の源泉であり、これがどのような内容でどのように作られているか、ということはその組織やコミュニティの創造性の度合いを表しているといっても決して言い過ぎではないと思う。

この記事では、議事録とはどのような内容であるべきで、また、それはどのように作られるべきかという私見を書きたい。

議事録とはなにか

議事録は、「過去」を記録するだけのものではなく、「いま」どんな議論が行われているのかをリアルタイムに可視化するものであるとともに、「未来」を生み出すための資源である。「プロジェクトや組織の知的生産性・創造性を高めるためのコンテンツおよびメディア」というと大げさかもしれないが、良い議事録は組織の生産性を高める。

議事録とは何かということを分解して考えてみると、以下に記載した3点で整理できるのではないかと思う。



【内容】議事録とは、プロジェクトや組織を成功に導くために必要な情報が記録されたもの

まず、議事録とは「プロジェクトや組織を成功に導くために必要な情報が記録されたもの」であり、何が「必要」なのかは、その会議を行っている目的や状況によって判断すべきものである。

しばしば、「議事録には決定事項だけを残せば良い」という議論を耳にすることもあるが、決定事項だけで良いかどうかは状況次第であり、決定事項に至った経緯にこそ価値があるのであれば、経緯も残す必要がある。では、決定事項に加えて、決定に至った経緯を記載すれば十分かといえば、それも違う。なぜなら、意思決定に関係する話題ではなかったが、プロジェクトや組織にとって重要な論点が提示されていたかもしれないからである。

結局、「行われている議論のどこに価値があって、その価値をどのように残しておくべきなのか?という判断ができるかどうか」という話に尽きるように思われる。 杓子定規に「決定事項だけを残すものだ」というスタンスも、「すべての発言を網羅すべきだ」というスタンスも、どちらも間違っている。目の前で話されている一言一言のどこに価値があるのか、ということを瞬間に感じ取り、必要があれば言語化していく必要がある。


【性質】議事録とは、主観的選択により客観的事実を残したものであり、完璧な議事録は存在しない

議事録は一般的には「客観的な事実を残したもの」と考えられているが、実際は極めて主観的なものである。会議の議論は往々にして曖昧で、「決まったような気もするが、決まっていないような気もする」というものも少なくない。そのような状況の中で、ある議論を決定事項と判断するかどうか(記載するかどうか)は主観的な判断で行われる。決定事項でさえもそうなのだから、決定事項には直接関係のない発言を残すべきかどうかの判断は、決定事項以上に主観的である。

議事録が主観的なものであるということは、完璧な議事録など存在しないということを意味する。この認識は議事録の作り方を考える上で非常に重要な点であるが、その点については後述したい。


【使われ方】議事録とは、プロジェクトや組織の生産性・創造性を高めるために、編集・利用され続けるもの

3点目として、議事録とは「プロジェクトや組織の生産性・創造性を高めるために、編集・利用され続けるもの」であると考えている。議事録は、ふりかえりをしたり、新たなアイデアが生み出したり、ナレッジを整理したりする際の重要な資源であり、議事録の内容は編集・利用され続けていくことが望ましい。議事録は、その意味で「知的生産ツール」である。


議事録はどう作られるべきか

では、議事録はどのように作られるべきか。 個人的には、以下の3点が重要であると考えている。



会議中に完成させる

議事録をどう作るかという点で1番重要なのが、「会議中に完成させる」ということである。 前述のとおり、議事録は「プロジェクトや組織を成功に導くために必要な情報が記録されたもの」であるから、少しでも早く必要なメンバーに共有されるべきである。議事録の提示が遅くなればなるほど、メンバーが取るべくアクションが遅くなる可能性が高まるし、そもそもの認識がズレていた場合には不要なコストを生んでしまう可能性がある。

旧態依然とした仕事のやり方をしているところでは、会議の録音を聞き直して、会議時間の何倍も多くの時間かけて作成している組織もあると思うが、それは本末転倒である。「完璧な議事録は存在しない」のだから、会議終了時点(もしくは終了直後)に一旦主要な要素だけでも共有し、その上で、不足しているものがあれば後から補えば良い。

それだけではなく、理想的には会議中に参加者に見える形で議事録を取り、認識がズレているところがあればその場で修正していけることが望ましく、リアルタイムにとっている議事録をプロジェクターやディスプレイで参加者が見える状態にできると良い。これは単に議事録作成を効率化するだけではなく、行われている議論が可視化されることにより、議論が空中戦になりにくくなる。リアルタイムに議事録を可視化していくことは、会議自体の質を高めるのである。

では、会議中に完成させるにはどうすればいいか、ということになるが、次の2)と3)がその解決になる。


複数人で作成する

会議で議事録を取る際によくあるケースは、議事録担当者が一人決定されて、その担当者だけで作成するというものだと思われるが、できれば複数人で議事録をとることをおすすめしたい。前述のとおり、何を記載すべきかどうか(議論に価値があるかどうか)の判断が一人に任されてしまうので、大事な情報が残されない可能性が高まってしまう。

仮に議事録担当者を決めるとしても、それは「一人で議事録を記録する役割」ではなく、「その会議の議事録が適切に取られるようにファシリテートする役割」であると考えたほうが良い。議論の内容を見て、「大事な議論をしているので、みんなで残そう」と声をかける役割である。

道具としてはGoogleDocsやScrapboxなどの同時編集が可能なクラウドツールを使用し、参加者全員で一緒に議事録を作っていけると良いが、そのようなツールを導入するのが難しければ、ホワイトボードや付せんでも良い。


テキストだけにこだわらない

最後に、議事録はテキストだけにこだわるべきではない、ということである。 ホワイトボードや付せんに書かれてるものであっても、それが「プロジェクトや組織を成功に導くために必要な情報」が記録されているのであれば議事録としての役割を果たしている。書かれていることを写真で共有することで必要な情報共有になるのであれば、それで十分であり、わざわざテキストにする必要はない。

たとえば、日産で行われている会議でも、付せんに書かれた意見を写真で撮ったものが議事録として扱われていると聞く。

過去のルールや形式に拘ることなく、あらためて「なんのための議事録なのか」ということをそれぞれの組織・プロジェクトで考え、議事録を取り方や使う道具を見直していく必要がある。 「議事録」というのはそれだけを見れば非常に小さな話かもしれないが、議事録の作られ方はその組織がどのようなものであるかを如実に表している。


執筆者 米山 知宏(よねやま・ともひろ)
プロジェクトファシリテーター、プロジェクトコンサルタント。

プロジェクト・組織の推進をPMとして関わりながら、プロジェクト・組織の未来に必要なナレッジ・知を言語化するサポートをしています。
対象分野は民間企業のDX領域が中心となりますが、シンクタンク・パブリックセクターでの勤務経験から、公共政策の立案・自治体DXに関する業務も担当しています。


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