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シェアド・リーダーシップ(石川淳、最上雄太)[連載:プロジェクトを両利きでマネジメントしていくための1冊]

この記事は、「両利きのプロジェクトマネジメント ――結果を出しながらメンバーが主体性を取り戻す技術」(2025年6月16日発売)に関係が深い書籍を紹介する連載記事です。
現代のプロジェクトに必要なのは、タスク管理やスケジュール管理だけでなく、チームで物事を進めていくための技術であり、そのためには、これまでプロジェクトマネジメントの中であまり目が向けられてこなかった各種の知見にも目を向ける必要があります。
この連載では、プロジェクトマネジメントの理解を深め、みなさんがプロジェクトをマネジメントしやすくなる書籍を紹介していきます。

この記事で扱うテーマは「シェアド・リーダーシップ」です。
シェアド・リーダーシップは、リーダー1人だけがリーダーシップを発揮するのではなく、チームメンバー全員がリーダーシップを発揮することを意味しますが、これはプロジェクトをよい形で進めていくうえで不可欠の要素です。
この記事では、『シェアド・リーダーシップ-チーム全員の影響力が職場を強くする』(石川淳)、『シェアド・リーダーシップ入門』(最上雄太)の2冊を紹介しながら、プロジェクトマネジメントにおいてなぜシェアド・リーダーシップが重要なのか、プロジェクトにおいて具体的に何をすることなのかについてお話ししたいと思います。

シェアド・リーダーシップとは、みんなでリーダーシップをシェアすること

シェアド・リーダーシップとは、特定の人だけがリーダーシップを発揮するのではなく、誰もがリーダーシップを発揮すること、つまりリーダーシップをシェアすることを意味します。
上記の書籍ではそれぞれ以下のように定義されています。

職場のメンバーが必要なときに必要なリーダーシップを発揮し、誰かがリーダーシップを発揮しているときには、他のメンバーはフォロワーシップに徹するような職場の状態
出典:『シェアド・リーダーシップ』(石川淳、中央経済社、2016年)

公式なリーダーの振る舞いの変化がフォロワーやチームに変化を与え、チーム・レベルの変化が公式なリーダーやフォロワーの振る舞いに変化を与えることで、チームメンバー各々が、自律的に考えて行動しているが、チーム全体としては調和している状態
出典:『シェアド・リーダーシップ入門』(最上雄太、国際文献社、2023年)

簡単にまとめてしまえば、シェアド・リーダーシップは以下の状態を実現しているものといえます。

  • リーダーシップを発揮するのは1人だけではない
  • メンバー各自が自律的に行動できている状態であること

なぜ、シェアド・リーダーシップがプロジェクトで重要なのか?

このシェアド・リーダーシップがなぜプロジェクトで重要なのか。
それは、プロジェクトをうまく進めていくためには、リーダー1人だけがリーダーシップを発揮する状態では限界があるからです。それで成功するプロジェクトももちろんありますが、リーダー1人だけがリーダーシップを発揮するプロジェクトは、リーダーも1人で苦労を背負う状態になるだけでなく、そのようなリーダーのもとで仕事をするメンバーも苦しい状態に陥ってしまう可能性を高めてしまうのです。

現代の複雑なプロジェクトは、リーダー1人が適切に判断し、適切な指示を出せるというものではありません。リーダーがすべてを把握できるわけではないのです。石川氏が指摘するように「いかに優れたリーダーであっても、1人のリーダーだけでは、優れた決断ができない」のが私たちが向き合っているプロジェクトだと思います。
また、「リーダーシップを発揮するのはリーダー1人である」という価値観が共有されていると、メンバーが主体的・自律的に行動することが起こりにくくなります。そこには、メンバーはリーダーに「何をどうしたらいいか」を毎回確認し、リーダーが指示を出す、というやり取りがあるだけです。このような対応をし続けることは現実的ではありません。

もちろん、リーダー1人だけがリーダーシップを発揮するという状況が必ずしも悪いわけではありません。緊急性がある状況などはむしろそれが望ましいでしょう。しかし、それだけでもプロジェクトはうまく進まないのです。どちらのリーダーシップスタイルも大事であるという前提の中で、状況に応じて使い分けていくこと=「両利き」が欠かせません。

プロジェクトマネジメントへのヒント

2冊の書籍のメッセージから、プロジェクトマネジメントに役立つヒントを紹介したいと思います。

役割を動的にすり合わせ続けること

まずは、石川氏の『シェアド・リーダーシップ』です。
『シェアド・リーダーシップ』は、シェアド・リーダーシップとはどのようなものであり、どんな効果を生み出すものか。そして、職場をシェアド・リーダーシップの状態にするために何が必要なのか、ということをわかりやすく整理している書籍です。
石川氏はシェアド・リーダーシップの特徴として以下の3点を指摘します。

  1. 全員によるリーダーシップ
  2. 全員によるフォロワーシップ
  3. 流動的なリーダーとフォロワー

先ほどから、全員がリーダーシップを発揮することの重要性に触れていますが、加えて重要なのが3点目の「流動的なリーダーとフォロワー」だと感じています。その点について石川氏は以下のように指摘しますが、まさにプロジェクトを進める際にも実現したい状態です。

誰もがリーダーシップを発揮し、誰もがフォロワーシップに徹するようなチームや職場は、必然的にリーダーとフォロワーが固定していない。固定していると、誰もがリーダーシップやフォロワーシップを発揮することができないからである。
出典:『シェアド・リーダーシップ』(石川淳、中央経済社、2016年、p68)

書籍『両利きのプロジェクトマネジメント』でもこの点は重視しており、第8章「チーミング」で言及した「ロールセッション」や「テンション」は、プロジェクトの中で役割をすり合わせ続ける道具です。
これらの道具も活用しながら、みなさんのプロジェクトにおける役割を動的に最適化し続けていただければと思います。役割のすり合わせは、プロジェクト開始時に体制図を作って終わり、ではないのです。

「対話」と「やってみる」

次は、最上氏の『シェアド・リーダーシップ入門』です。
『シェアド・リーダーシップ入門』は、シェアド・リーダーシップがどのように発生するのかという発生プロセスにフォーカスする書籍です。著者の博士論文をベースとしたものであり、難しい概念がでてくるところもありますが、わかりやすく説明されており、一般の社会人でも実務に活かしやすい内容です。

最上氏は、シェアド・リーダーシップの発生条件として「対話」と「やってみる」ことの重要性を指摘します。

シェアド・リーダーシップの発生は次に示すチームの関係性として説明できる。
①あなたが変わるならば私も変わる
②互いの「やってみる」を承認しあう
③言うべきことを言い合う
④多声的なチーム
出典:『シェアド・リーダーシップ入門』(最上雄太、国際文献社、2023年、p200)

本書の理論的意義は、シェアド・リーダーシップの発生を把握するために、公式なリーダーを含めたチーム・メンバー間の対話の関係性=ダイアローグに焦点を合わせるという発見にある。
斜度・リーダーシップの発生を把握するための対話の関係性とは、予定調和、妥協的な合意や承認、あるいは忖度とは対極的な位置にある、公式なリーダーとチーム・メンバーの率直な意思のぶつけ合いである。ぶつけ合いと言っても、独善的に主張する、相手を批判する、相手の主張を論破するというモノローグでなく、1人称の「わたし」がどう考えどう感じるかを語り、忖度や遠慮をせずに「言うべきことを言う」ことを歓迎し合う緊張感あるダイアローグの関係である。
このようなダイアローグでは創造的な「気づき」が生じ、それに触発されて「やってみる」という生成的変化が引き出される。
出典:『シェアド・リーダーシップ入門』(最上雄太、国際文献社、2023年、p221)

詳細はぜひ『シェアド・リーダーシップ入門』をお読みいただければと思いますが、これらも、より成果を生み出しやすいプロジェクトチームになっていくために重要な点だと感じます。

つまり、あなたがプロジェクトリーダーやプロジェクトマネージャーの立場だとして、メンバーにリーダーシップを発揮してほしいと思っていたとき、「君たちにはリーダーシップを発揮して、主体的に動いてもらいたい」という一方的な要求だけでは、シェアド・リーダーシップは発生しないということです。
プロジェクトリーダー・プロジェクトマネージャーであるあなた自身も変わる姿を見せながら、対話を通じてお互いの「やってみる」を引き出していくという、極めて関係的なプロセスが必要ということではないかと思います。
「メンバーがリーダーシップを発揮してくれない、主体性を発揮してくれない」とあなたが思っていたならば、それは、そのように思っている「あなた」に原因があるかもしれないのです。

『シェアド・リーダーシップ』をぜひ読んでいただきたい理由

私が「両利きのプロジェクトマネジメント」を書く中で、『シェアド・リーダーシップ』と『シェアド・リーダーシップ入門』から多くのヒントを得たように、プロジェクトに関わる全ての方に、ぜひこの本を読んでみてほしいと心から思っています。

この2冊を読むことで、プロジェクトにおけるリーダーシップのあり方に対する考え方が、きっと大きく変わるはずです。プロジェクトマネジメントは、ただ計画通りに進めることや、進捗状況を管理するだけではなく、チームのメンバー一人ひとりの持っている力を最大限に引き出し、みんなで同じ目標に向かって進んでいくためのリーダーシップが不可欠であるからです。

これらを読むことで、以下のような考え方を知ることができると思います。

  • シェアド・リーダーシップとはどういうものか?
    • チームみんながリーダー:リーダーシップは、特定のすごい人だけのものではなく、チームの誰もが発揮できる力である
    • その時々で変わるリーダー:プロジェクトの状況や出てくる課題によって、一番適した人がリーダーシップを取ればよい
  • シェアド・リーダーシップをどう生み出していくか?
    • 「分化」と「統合」
      • 分化を促進するための「自己効力感」「パーソナリティ・ベース・リーダーシップ」「多様性を認める風土」
      • 統合を促進するための「目標の共有化」「視点の変化(上からと現場の両方の視点)」
    • 「対話」と「やってみること」
      • 「わたし」がどう考えどう感じるかを語り、忖度や遠慮をせずに「言うべきことを言う」対話の関係性
      • このようなダイアローグを通じて生じる「気づき」から、「やってみる」という行動につなげる

もしあなたが、「プロジェクトチームのみんなが、もっとイキイキと仕事に取り組んでほしい」「チーム全体の力を底上げして、もっと良い成果を出したい」「変化の多い今の時代に合った、新しいチームの進め方を知りたい」「これからのリーダーシップについて、もっと深く学びたい」と感じているなら、ぜひ一度、紹介した書籍を手に取ってみてください。きっと、あなたのプロジェクトマネジメントに対する考え方が、大きく変わるはずです。

そして、『シェアド・リーダーシップ』を通して、チームの力を最大限に引き出すリーダーシップに関心を持たれた方は、ぜひ私の著書『両利きのプロジェクトマネジメント』も読んでみていただければと思います。
『両利きのプロジェクトマネジメント』では、「シェアド・リーダーシップ」の考え方も踏まえながら、リーダーシップをシェアしながらプロジェクトをチーム全員で推進していくためのヒントを紹介しています。

一緒に、これからの時代のプロジェクトマネジメントを探究していきましょう。



執筆者 米山知宏(よねやま・ともひろ)Facebook / Twitter
株式会社コパイロツト Project Enablement事業責任者 / 新潟県村上市役所CIO補佐官。
東京工業大学大学院社会工学専攻修了後、株式会社三菱総合研究所、新潟県新発田市役所を経て現職。
民間企業や自治体におけるデジタル・トランスフォーメーションや組織変革を支援しながら、プロジェクトを推進する方法論を探究している。
探求成果は株式会社コパイロツトのブログSpeakerDeckで公開している。

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