7月19日(木)にNight Flight by COPILOTの第5回目を開催いたしました。
5回目となった今回は「ゲームデザイン」✕プロジェクトマネジメントをテーマにお集まりいただき、大盛況に終えることができました。
Night Flight by COPILOTとは何か?
コパイロツトでは「プロジェクトマネジメントをアップデートする」ことを目的に、次の2つの課題を意識しつつ、Night Flightというオープンな勉強会を開催しています。
①「プロジェクトマネジメント」をもっと広くとらえ、時代に合わせた定義をする。
②新しい定義のプロジェクトマネジメントが定着し、それができる人を増やす。
幅広い分野の有識者の方を招いた講演と、ワークショップなど実践的な学びを通して、実際の仕事の現場に活かせる知識を深めていく場にしたいと考えています。
今回はゲームソフト「ワンダと巨像」などのゲームデザイナー、シナリオライターとして活躍されている𥱋瀨洋平さんをお迎えしました。現在はユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社のプロダクト・エヴァンジェリスト、東京大学先端科学技術研究センター 客員研究員として、多岐にわたるご活躍をされていらっしゃいます。
前半は、「ゲームデザインとは何か」について𥱋瀨さんにご講演いただき、後半では「ゲームデザインの思考法から得た知見を、プロジェクトマネジメントにどう活かすか」という主題でワークショップと交流会を行いました。
講演メモ
そもそもゲームとは何か?
- 𥱋瀨さんのゲームの定義は「ルールとゴールのある遊び」。
- 「遊び」とは、体や心の成長によって変化する活動である。かつ、普段の生活の中でしない行動や、体の動きを突き詰める過程を楽しむ娯楽活動である。
- ゲームとは、続けられるように工夫された遊びである。
- デジタルゲームは、誰でもルールに従い、工夫して目標を目指せるようにコントロールされた遊びである。
ゲームをどう発想するか
ゲームの基本構造は「コンセプト×ユーザー体験×ルールとメカニクス」の3つのレイヤーである。
「バットマン:アーカム・ナイト」の場合
**コンセプト - 元々あるバットマンの世界観を活かし、その世界のなかで犯罪者を捕まえる。 - 本来の世界観に合わせ、「殺さないこと」が重要である。
** ユーザー体験 - ハイテクな武器で武装し、機械がレベルアップして強くなる。 - 大量の敵に囲まれながらも華麗に戦う。
** ルールとメカニクス - 使用する武器システムは「コンピュータ」。 - バットマンがゴーグルの中で実際に見ているようなハイテクなUIデザイン。コンピュータがバットマンの活動を補佐しており、武器の使い方や車の運転の方法をアドバイスする設定がそのままプレイヤーのチュートリアルになる仕様になっている。 - 敵と戦うことでコンピュータが学習し、武器を改良していく。
上記の3つのレイヤーが隅々まできちんと噛み合わさる事で、プレイヤーはキャラクターの行動に違和感を感じない設計になっている。
ゲームをどう遊ばせるか?
RPGの場合は、大きな目標の提示のあとに、小さな目標を作っていくことが重要である。
ドラゴンクエストの場合は、以下のような大きなゴールが提示され、そこに至るための小さな目標が設定されている。
目標例:「魔王を倒す」→「魔王を倒すために武器や仲間を探す旅に出る」→「ダンジョンやフィールドを探索していると敵が出てくる」→「敵を倒す」→「レベルを上げ、成長を積み重ねる」
ドラゴンクエストの「コンセプト×ユーザー体験×ルールとメカニクス」
** コンセプト - 冒険を続け、より大きな悪に挑む。 - 困っている人を助けて感謝される。 - 仲間との絆を深め、魔王を討ち果たす。
** ユーザー体験 - フィールドで街やダンジョンを見つけ、それを探索する。 - レベルを上げ、強かった敵を倒すことができるなど、成長を体験する。
** ルールとメカニクス - 歩き回る。 - どの敵を攻撃するか選ぶ。 - レベルが上がり、新しい技や魔法が習得可能になる。
ドラゴンクエストは「選択肢」を選ぶゲーム。戦う以外にも逃げる、戦略の変更等、様々な選択肢があるから面白い。
ドラクエの魅力は、物語の起伏とシステム的難しさがうまくリンクして、面白さを生み出していること。
ゲームをどう続けさせるか?
作業にさせない工夫
- ミニマムなメカニクスを繰り返し遊ばせる。
- 例:戦闘・レベル上げによる小さな達成感が連続することで楽しさが生まれる。
- 新たな大陸の登場や強いボスキャラとのバトルなど、新しい要素を足し、シチュエーションを変えて、飽きさせない工夫をする。
- ゲーム内の指示でユーザーを動かさないようにする。
- 最初の一歩を踏み出す動機の説明として、「物語」を提示する。
- たとえば、魔王への復讐の動機をプレイヤーの住んでいた村が焼かれたことにする。さらに効果的な演出として、親友キャラクターを作るなど、共感できる物語を提示する。
やる気にさせるシナリオ作り
- 島に行くとする。ノンプレイヤーキャラクターの誰も島に行く方法自体を教えてくれないが、「海辺に壊れた船がある」等の周辺情報を話してくれる。それらを組み合わせることで、自分で目標を設定できる。
改めて「ゲームのデザイン」とは
- ユーザーにどういう体験をして欲しいのか、芯となるユーザー体験を組み立てる。
- ユーザー体験を実現するためのメカニクスを選ぶ。
- 続けさせる仕組みを作る。
- なぜレベルを上げないといけないのか?なぜ魔王を倒さないといけないのか?を納得させるコンセプトを提示する。
- 「コンセプト×ユーザー体験×ルールとメカニクス」を一行で説明した時に、魅力的であることがゲームデザインには重要である。
まとめ:ゲームとは
- ゴールを提示して始めさせる。
- ルールで行動させる。
- ゴールを変えて続けさせる。
- ルールとゴールの納得のためにコンセプトを作り込む。
- そのルールに納得できるコンセプトがあれば、人は行動を変える。
簗瀬さん×COPILOT 質疑応答抜粋
講演後、ゲームデザインとプロジェクトマネジメントをより紐づけるために、簗瀬さんとコパイロツトの共同創業者の定金による質疑応答を行いました。
定金(以降定):ゲームデザインを分析してプロジェクトマネジメントに応用することについて講演していただきましたが、このような分析の応用について、実際体験された例はありますか?
簗瀬さん(以降簗):以前、その分野のゲームを一切していないのに、ネットで自分に近い感覚のプレイヤーのプレイ動画1を大量に見て分析し、ゲームを作ってきた高校生に会いました。動画は何かしながら見られるので、ゲームプレイと同じ時間をかけなくてもそのゲームの特徴を分析できたのでしょう。
定:学生の持ってきた企画書に全体像がないと詳細を見ないと言っていました。我々の企画の見方も同じで、まずは全体像の把握を重要視しています。簗瀬さんは企画書を持ってきた学生にどのように指導しているのでしょうか?
簗:指導をすることはあまりなく、結果を見て感想を言うくらいなのですが、企画書を見てユーザー体験やメカニクスがどういったものなのかが最初の1ページでわからないといけないと思います。
定:学生が全体像を描けないとして、では全体像を描く能力はなにをやっているから身につくのだと思いますか?
簗:ゲームをどれだけたくさん作っているかです。手数が直結すると思っています。今は簡単にゲームが作れる環境ですし、作りながら考えることだと思います。
定:ゲーム内でのゴールの設計のやり方について、大きなゴールの提示のあと、小さいゴールを作っていくとおっしゃっていました。そのゴールの登場するタイミングや、バランスの取り方や難易度調整はどうやっていますか?
簗:基本的には時間単位です。ゲームとゲームのメカニクスが何によるかも関連します。ただ、長い方が達成感はあります。ゴールまでの道のりと難易度により、途中で諦める人がいますので、そこは注意が必要です。長短のバランスは試してみるしかありません。そういった検証データは完成品からしか取れないので、難しいところもあります。
定:実生活でゲームデザインの思考を取り入れてうまくいくようになった例はありますか?
簗:買っている犬の散歩です。犬は暑いのが苦手なので、気温が20〜25度くらいの涼しい朝方に散歩しないといけません。夏が近づくにつれて、涼しい時間は朝早くなっていくので、明日何時に起きられるかをゲームのようにデザインしています。やろうと思ったことがクリアできるのは嬉しいですね。
定:実験をする際の着想はどこから得ますか?
簗:論文を大量に読んでいます。3つ以上のジャンルに詳しくなると新しいことが生まれる可能性が大きいです。(2つ以上詳しい人は少ないので。)それを組み合わせる事です。
定:日々をゲームとして楽しむマインドセットはどうやって培ったんですか?
簗:常にリスクとリターンについて考えながらゲームを作っていますし、それが楽しいことを知っているので、日常のなかでも何かしらの動きを遊びにして、小さなリスクやリターンを楽しんでいることが関係しているかもしれません。
定:小さなリスクを楽しめるコツ、心がけを教えてください。
簗:大きなリターンを求めない事でしょうか。そして、リターンが小さくても楽しいと思えることです。
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ゲームをプレイしている状況を録画・編集した動画↩